補完型退職貯蓄プランは固定給のない高齢者のために安全と安定を提供するための制度であり、インドの国民年金制度 (NPS) はまさにそれを目指しています。NPS は、補完型確定拠出年金プランであり、制度への加入は任意です。世界のほとんどの国と同様、インドの人口も高齢化しており、寿命も長くなっています。健康状態や衛生状態の改善により、世界の平均寿命は1990年の65歳から2050年までには77歳に延びると予測されています。1 ほとんどの人にとって寿命が長くなることは、働かないで生活を楽しむ期間が長くなることを意味します。ただし、ますます多くの世界中の人々にとって、働かない期間に快適に暮らすために十分な収入を維持することは困難になることが予想されます。ほとんどの高齢者はもはや収入を得ていないだけでなく、年を取るにつれて生活費とインフレ率が増加しています。世界中の政府指導者が国民の退職後の生活に備えるよう支援する方策を検討している中、退職後の貯蓄を促進し、高齢の労働者が老後の貧困状態を回避することを支援するモデルとして、インドの NPS を参考にできます。 インド国民年金制度の基本   2004 年、インド政府は国民に退職後の収入を得させることを目指して国民年金制度を開始しました。2この制度は年金改革を実施し、退職後の貯蓄の習慣化を促進することを目的としています。 当初、このプログラムは国家公務員のみが利用できましたが、2009 年には、18~60 歳のすべてのインド国民が NPS を追加で利用できるようになりました。Tier I NPS 口座 (税務上の優遇措置を受けるのに必要な口座) は、口座保有者が退職年齢に達するまで早期の引き出しを抑制するように設計されています。口座保有者が退職年齢前に引き出す場合、2 割のみ許可されますが、残りは年金保険の購入に使用されます。NPS の加入者には税制上の優遇措置が十分に提供され、税引前で拠出が行われます。ただし、一部引き出した場合は課税されます。 退職年齢に達した場合、累積金額の 6 割を非課税で引き出すことができますが、残りの 4 割は公認年金保険機構から年金保険を購入する必要があります。給付は 70 歳まで延期して投資を続けるか、希望すれば新たな拠出を行うことも可能です。 Tier II NPS アカウントは、厳しい解約ペナルティやロックイン制度のない任意の年金基金です。3 年間のロックイン期間を要する Tier II NPS では、いくつかの税務上の特典が提案されています。ただし、この提案は確定ではありません。 この制度の開始後にインド政府は、特に低収入労働者の間で退職後の貯蓄を促進する追加の社会保障プログラムを創設しています。2010 年、政府の Swavalamban スキームでは、政府または雇用者年金でカバーされていない、毎年 1,000 ~ 12,000 ルピーを拠出した貯蓄者の口座に、1,000 ルピーを預けることが約束されました。ただし、2015 年には、退職時に一定の資格を満たす貯蓄者のために確定拠出年金を保証する Atal Pension Yojana (APY) が支持されるようになると、その計画は廃止されました。さらに、APY では 5 年間 (2015 年から 2020 年まで) で基金の合計拠出金の 50% または年間 1000 ルピーのいずれか少ない方で政府が出資を行っています。 インドの NPS は何度か繰り返され、進化し続けていますが、この制度はインド国民の間で退職者の貯蓄を増やすのに役立っています。国民の期待も変化しています:老後を支えてくれる若い家族に依存する代わりに、貯蓄を調整して、退職後の生活を支える準備をし始めています。 それに加えて、NPS は最も安い投資商品の 1 つです。NPS の全体的なコストは他の商品よりはるかに低く、おそらく利用できる最も安い年金商品です。 インドモデルから学べる3つの教訓   国民全員のための国民年金プログラムを提供するインドの実験は、世界中の組織のリーダーに対して、多くの貴重な教訓を提供しています。 1.持続不可能な国債には新しい解決策が必要   NPS が創設される以前、インド連邦および州政府の職員は税方式の確定給付年金プログラムにより、退職時にインフレ調整後 5 割の代替賃金で補償されていました。1980 年代半ば、このプログラムのコストは年間 5 億ドル未満でしたが、2006 年までに寿命が延びたため年間 6,000 億ドル以上に急上昇しました。  3 プログラムは持続不可能となり、リーダーは将来の労働者の退職に備え、国の財政を保護するための代替プログラムを開発する必要があることに気付きました。NPS の創設以来、新たに政府職員となるすべての人が加入しており、労働者が自ら退職に備える責任を養い、政府の持続不可能な年金債務がかさんでしまわないよう保護しています。 2.補完型退職貯蓄制度で重要となる税制上の特典   加入者のほとんどは、税制上の優遇措置のために NPS への投資を選択します。しかし、一部のインド国民は、ミューチュアルファンド商品や民間退職貯蓄手段の中には市場平均を上回る可能性が高く、税制上の優遇措置も提供されていたため、NPS への加入を選択しなかったことが報告されています。 国民に貯蓄を奨励し、NPS を促進するために、政府は 3 種類のカテゴリーで減税オプションを用意しました。3 番目の選択肢は、NPS の企業モデルを通じて拠出されている給与を支給される従業員に限定されています。3 つのカテゴリーはすべて組み合わせて利用できますが、互いに排他的です。 さらに、退職時に認められているコーパスの非課税引出し限度額 (コーパスの早期限度 4 割からコーパスの 6 割まで) が最近緩和されました。もともと、引き出し額は 6 割が許可されていたものの、残りの 2 割には通常の税率で課税されていたため、完全非課税にすることでさらに魅力が高まりました。 雇用主が提供する確定拠出年金制度を含む他の退職貯蓄制度を利用できる少数の役員がいるかもしれませんが、国民のほとんど (特に労働者階級) は他の退職貯蓄制度を利用できないため、NPS の優遇税制について説明することが、退職貯蓄を奨励する決定的な動機付けになります。 3.国民にはモデルの優遇税制に関する教育が必要   NPS ではいくつかの優遇措置が提供されているものの、加入率は比較的低いままとどまっています。4最近の調査に対する回答からは、貯蓄の重要性や複利の利点を理解していないため、加入しないままでいる可能性があることが明らかになっています。 NPS リーダーは、この制度について人々に伝え、教育するためにさまざまな方法を使ってきました。たとえば、別々の 2 か所で行われたパイロットプログラムでは、組織化されていないセクターの労働者と主要な利害関係者を対象としたワークショップ、会合、キャンプが開催されました。さらに、情報発信はケーブルテレビネットワーク、ラジオ、広告宣伝車、セミナーやロードショーで行われました。 インドでは年金プログラムの成功の評価が続いており、将来さらに変更が加えられる可能性があります。多くの国で高齢者の貧困問題を解決しようと苦労していますが、インドの NPS は多くの国民にとって将来を保護するための積極的なステップとなっており、モデルとして参考にする価値があります。 出典: 1. United Nations: Department of Economic and Social Affairs,"World Population Prospects — 2017 Revision: Global life expectancy," United Nations: Department of Public Information, June 21, 2017, https://www.un.org/development/desa/publications/graphic/wpp2017-global-life-expectancy./ 2. "National Pension System — Retirement Plan for All," National Portal of India, October 22, 2018, https://www.india.gov.in/spotlight/national-pension-system-retirement-plan-all. 3. Kim, Cheolsu; MacKellar, Landis; Galer, Russel G.; Bhardwaj, Guatam, "Implementing an Inclusive and Equitable Pension Reform," Asian Development Bank and Routledge, 2012, https://www.adb.org/sites/default/files/publication/29796/implementing-pension-reform-india.pdf. 4.Zaidi, Babar, "5 Reasons Why Investors Stay Away From NPS. But Should You?" The Economic Times, December 27, 2018, https://economictimes.indiatimes.com/wealth/invest/5-reasons-why-investors-stay-away-from-nps-but-should-you/articleshow/61890679.cms.

Anil Lobo | 27 6 2019
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アジアの年金制度は大きな課題に直面しています。この地域では急速に人口が高齢化し、少子化が進むなど、人口統計学上の激しい変化が見られます。しかし、地政学的な不確実性と最低レベルの金利により、投資収益率は比較的低くなっています。 堅固な年金制度が比較的少ない地域であるため、多くのアジア諸国は、十分な年金を提供するのに苦慮しています。政府は金銭的負荷を軽減し、若者と高齢者による世代間の争いを回避するために、今すぐ積極的な行動をとる必要があります。 十分性、持続性、健全性の観点から世界の年金制度を比較・ランク付けする2018年度マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)によると、アジアの出生時平均余命は、過去40年間に、多くの国で7年から14年延びています。平均すると、4年ごとに1年延びていることになります。過去40年間における65歳の国民の平均余命延長は、インドネシアの1.7歳からシンガポールの8.1歳までさまざまです。 世界の他の地域も、高齢化に関連する同様の課題に直面しており、各国で同様の政策改革が進められています。これには、年金受給年齢の引き上げ、高齢就労の奨励、退職後に備えた年金基金の増額、退職年齢前に年金口座から引き出せる金額の引き下げが含まれます。 2018年度MMGPIの調査結果は、ある根本的な疑問を投げかけています。アジア各国の政府が年金制度の長期的な成果を改善するには、どのような改革を実施できるか、というものです。 世界基準の年金制度を確立するための自然な出発点は、十分性と持続性の間の適切なバランスを確保することです。短期間で多くの給付金を提供するシステムは持続性が低く、一方で長年にわたり持続可能なシステムは、通常控えめな給付金しか提供しません。 退職年齢や、社会保障や個人年金にアクセスできる資格年齢を変更しなければ、退職制度への負荷が高くなり、結果として、高齢者に提供される経済的保障が脅かされる可能性があります。女性と高齢労働者の労働力参加率が増加すれば、十分性と持続性を改善できます。 日本、中国、韓国は、MMGPI指数の最下位近くにランキングされています。これらの国々の年金制度は、現在と将来の世代の退職を支援できる持続可能なモデルになっていません。制度が変更されなければ、年金給付が世代間で均等に分配されないため、これらの国々では社会的な争いが発生するでしょう。 例えば日本は、約340万人の公務員の定年退職年齢を現在の60歳から65歳に徐々に引き上げることにより、年金制度改革のために少しずつ前進しています。日本の退職者は現在、60歳から70歳までの任意の時点で年金受給の開始を選択でき、65歳以上で受給を開始すると、毎月の受給額が増えます。 世界最高の平均余命、世界最低の出生率の日本では、人口の減少が予想されています。この困難な状況は、すでに熟練者不足の一因となっており、これが日本の税収基盤の減少にさらに影響を及ぼすと考えられています。また、生産年齢人口の49%が個人年金制度を利用していないため、日本政府は、より高水準の家計貯蓄を奨励するとともに、国による年金保障水準を引き上げ続けることで、年金制度を改善できる可能性があります。退職給付の一部を、一時金ではなく年金として受給するという要件を導入すれば、社会保障制度の全体的な持続可能性は向上します。また、国内総生産に占める政府債務を減らすことによっても、現在の年金支払水準を維持できる可能性が高まります。 中国は別の問題に直面しています。中国独自の年金制度は、都市部および農村部の人々、さらには農村部の移住者や公共部門の労働者に対するものなど、さまざまな制度で構成されています。都市部および農村部には、(雇用主の拠出または政府支出の)プール用口座と、(従業員拠出の)積立個人口座からなる賦課方式の基礎年金制度があります。雇用主によっては、特に都市部では補足的な制度も提供されています。 中国の年金制度は、年金に占める労働者の積立の割合を増やして労働者の退職生活保護を総合的に強化するとともに、最貧困層への最低限の支援を増やすことによって改善される可能性があります。また、補足的な退職給付金の一部を年金として受給するという要件も導入する必要があります。より多くの投資オプションを年金加入者に提供して、成長資産への投資機会を増やす必要があります。また、年金制度と加入者とのコミュニケーションにも改善の余地があります。 香港では、自発的な加入者による積立を奨励し、それにより退職貯蓄を増やせるよう、税制上の優遇措置の導入を検討すべきです。また、香港でも、補足的な退職給付金の一部を年金として受給する要件を導入する必要があります。平均余命が伸びれば、高齢労働者は労働市場に留まるべきです。 韓国の年金給付額は、平均賃金の割合のほんの6パーセントで、貧困層にとってきわめて不十分な年金制度の一つです。韓国の制度は、最貧困層の年金受給者への支援水準を改善し、私的年金制度からの退職金給付の一部を年金として受給するという要件を導入し、全体的な積立水準を引き上げることで改善されると考えられます。 しっかりと構成されたシンガポールの年金制度は、アジアで第1位にランキングされており、持続性においても向上が見られます。退職金制度の中央積立基金制度(CPF)は、シンガポールで雇用を受けた全居住者および、永住者を含めた加入者に柔軟なサービスを提供しています。しかし、実施可能なことはまだあります。税務上承認を受けたグループ企業による退職金制度確立に対する障壁を緩和するとともに、労働力の3分の1以上を占める非正規かつ非居住の労働者もCPFを利用できるようにすべきです。CPF加入者が貯蓄を利用できる年齢も引き上げるべきです。 年金制度は世代間の問題であるため、長期的な視点が必要となります。年金制度は、いずれの市場でも最大の機関投資の1つであり、気候変動などのリスク管理を含め、託された資本の優れた管財役として働く重要性をもっと認識すべきです。 アジアの高齢者は70代から80代に達しても生産性を維持しているため、十分かつ持続可能な退職所得の準備状況を改善することが不可欠です。雇用主と政策立案者は、退職年齢の引き上げ、労働者の個人年金の対象範囲の拡大、ファイナンシャルプランニングおよび早期貯蓄の奨励に注力すべきです。 *本記事はNikkei Asian Reviewに掲載されたものです。

David Anderson | 03 4 2019
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生活の質(QOL)というものは強い力である。ある世代の人々が先例のない経済的な機会や長期間金銭的に恵まれた状態を経験すると、その水準を維持する、もしくはより良いものを強く望むようになる。中国では、その快適なライフスタイルを、将来的にもずっと謳歌しようと心に決めている中流階級の人々の波が押し寄せている。さらに、現代テクノロジーに精通して金銭感覚も鋭い、より若い世代の中国人従業員達は、14億人もの人口が引退することの意味を見直し始めている。 何を頼りにするかが重要な鍵となる。中国人は引退後の生活において、政府や年金基金、雇用主、家族、生命保険の保険金やファイナンシャルアドバイザーのような、外部からの金銭的なサポート を強く信用している。仕事を始めたばかりの若い従業員は、自分達の長期間の財政を管理するにあたり、オンラインツールやファイナンシャルアプリにより重きを置いている。しかし、こういった信頼は、中国がより大きく世界的な経済勢力に適応し、力強く文化的に発展するにつれて、社会の高齢化のような試練を受けるだろう。詳しくは『マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)』に記されている。 変化に適応することの課題 MMGPIでは「十分性」「持続性」「健全性」の3つの指数をもとに各国の年金制度を評価している。これらのデータの包括的な分析により、各国の総合的な指数ランキングを行う。中国は2018年、総合指数で46.2の評価を受けた。ちなみに、オランダとデンマークが最高評価でそれぞれ80.3と80.2、アルゼンチンが最低評価で39.2だ。日本(48.2)、韓国(47.3)そしてインド(44.6)はすべて中国と似たような評価だった。当然の事ながら、これらの成長市場においては、特に少子化が進む時代において高齢化する何百万人もの人々への経済支援に関して、中国でも見受けられるような国内の政策課題を抱えている。   1970年には、中国の平均寿命は59歳だった。今はそれが76.5歳だ。高齢化する中国人労働者はより長生きするようになり、中国の人口統計に劇的な変化をもたらしている。寿命が長くなることにより、国家の年金の財源と、中国の中流階級世代が自分達の前に一生懸命働いてきた両親や祖父母世代を支えるための経済力とが、試されることになる。現在、中国の年金制度は農村の制度と都市の制度とに分けられ、賦課方式の年金を採用している。これらの年金は、プールされた口座(雇用主からの拠出金もしくは財政支出)と従業員拠出による個別の個人口座とで構成されている。都市部によっては、雇用主が企業年金を提供している場合もある。しかしながら、こういった複合的な財源も、中国の高齢化する人口のニーズについていけていない。 財源の多様性について語る MMGPIの分析により明らかになったのは、中国の年金制度の将来に最もインパクトのある道筋を作るには現行のサービスを増強し、先を見据えた政策を実行し、そして従業員に対して各々の個別なニーズに最も合った様々な選択肢や制度について教育を行うことが必要だということだ。調査結果により中国の政策立案者には具体的に下記のようなことが推奨されている。 1. 労働者の既存の年金制度の対象者の拡大を続ける。対象者を拡大することで何百万人という引退した従業員の安全網をより強くし、「十分性」を高めることになる。 2. 最も困窮している高齢者個人へのサポートの最低レベルを引き上げる。この層は高齢化する人口の中でも最も脆弱で危険にさらされており、追加のサポートにより最も恩恵を受ける。 3. 補完的な退職給付の一部を継続した所得という形で受け取ることを義務づける。分割払いもしくは年金としての収入があれば、お金の支払いに対して固定された効果的な手段となる。多様化する引退後の所得戦略の一部として使用されるとなれば、特にそうである。 4. 公的年金の受給年齢を徐々に引き上げる。人々は今や長生きをしており、自ずと働く期間も長くなり引退する時期も遅くなってきている。これは「持続性」を高める鍵となる。 5. 投資の選択肢の幅を広げ、それにより加入者に資産を増やすための可能性を広げる。投資を多様化することは賢明な投資の基盤となる。特に自身の資産を増やす新しい方法を強く望んでいる中国の中流階級にとっては、より多くの投資機会を提供することがより一層の経済的な安定をもたらす。 6. 年金制度の詳細について、加入者に対して、よりコミュニケーションをとり教育をする。新たな投資メカニズムや政策、そしてデジタルテクノロジーが次々と出現しているということはつまり、各個人は最新の機会についての情報を知らないことがあるということだ。   協調するQOL 成功している文化というものは、その社会を構成する全てのメンバーに対してきちんとした質の生活を提供しようと努力するものだ。それには、資産の取得と分配において公正で統制が取れていることが必要になる。現代の中国では、そういった資産の大部分は若い労働者、特に賃金の高騰やとてつもない機会を経験している中流階級によって生み出されている。中国の中流階級が、新商品や高品質のぜいたく品そしてより高い生活水準をもっと欲するようになれば、それは長期間、つまり自分達自身とその高齢化する家族に対して資産を分配することとなる。 43%近くの中国人労働者は、年金の積立額を増やしたり副業の仕事をすることで貯蓄を補完 し、引退後のQOLを自分達の望むようにしたいと思っている。これはつまり、中国人の多くの層が来るべき年金問題について認識しており、将来の困難を減らそうと個人的に行動を起こしていることを表している。個人の経済的な豊かさのための熱心なアプローチは、雇用主や政府機関からのスマートな年金制度によって補完され、財源の相乗効果によって年齢を重ねる上でQOLを考慮に入れるのが当たり前になり、Y世代やミレニアル世代からその親や祖父母世代までの幅広い中国人労働者を力づけることができる。 中国やほかの国々の年金制度についてもっと詳しく知りたい場合は、『マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)』と Mercer Chinaをご覧ください。

Janet Li | 29 12 2018
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アジアの大半で事業展開している企業は、この地域に特に顕著な人口の高齢化の深刻な課題に直面している。まずアジアパシフィック全体がグローバルに見ても最も高齢化が進んでいる地域である上に、国によっては他よりも早くこの高齢の人材に関する問題にぶつかると予想される。企業は高齢の従業員をうまく活用する必要がある。テクノロジーの分野のように若い世代に人員が偏る分野は特にそうだろう。 先人の知恵がなければ新しい世代が生まれるたびにすべてを一から始めなければならないだろう。子供達は自ら読み書きや靴紐の結び方、またはどうやってドアを開けるのかなどを学ばなければならなくなる。スポーツのルールがなくなり、車はひび割れた高速道路上で錆になる。幸いなことに、先人、つまり親や教師、指導者達が、後続の世代に生きるための知恵を与え、人生の困難においては先導し、そしてこの世界に意味を見出す。ベテラン社員はこういった恩恵、いやそれ以上のものを企業にもたらすのだ。 研究者によれば生物学的には加齢によってエピソード記憶(事象の記憶)や作業のスピード(複雑なタスクの処理)は低下するが、同時に、加齢により意味記憶(基礎知識)や言語やスピーチスキル(会話能力)が上がるということも分かっている。事実、一般的に「流動性知能」(新たな問題を解決したり、決まった法則を見つける能力)は高齢の社員には欠けがちだが、「結晶性知能」(知識や経験から必要なスキルにアクセスする能力)は彼らの方がはるかに高いということも分かっている。また、高齢の社員は、感情の制御のキャパが広く、つまり、ストレスの多いもしくは緊張感の高い職場で難しい決定を下す時に、より落ち着いて合理的に(そしてそれゆえに費用対効果の高い)行動を取れるということも知られている1。   感謝することが及ぼす力   年齢を重ねたベテラン社員は、人生とは儚いもので良好な健康状態とやりがいのある仕事が、あって当然のものでは決してないということを理解している。彼らは若い世代よりももっと仕事における充足感を望む。外部からの誘惑や影響に気を取られることなく集中することができる傾向にある。若い従業員は、特に景気が良い時には、しばしば他社の、給料や設備、職場環境がより良い機会に心を奪われる。彼らは仕事を辞め易いし、昇給への一番の近道は目の前の上司との交渉よりも転職だと信じがちだ。最近は、若い従業員にとっては2~3年たたずに次の仕事へ移ることはもはや当たり前になっている。この傾向は、雇用主にとっては恐ろしくコストのかかるものだ。 また、会社におけるベテラン社員は、組織づくりや知識の定着において大きな潜在能力を発揮する。2000年代初頭のベビーブーマーの大量引退の波の下では、多くの企業が彼らがいなくなることで起きた知識の空白に苦しめられた。ベテラン社員の知恵を保つことは、企業文化や知識の継承の鍵となる。定期的に起こる破壊と進化の環境においては特に重要な特性となるのだ。研究によれば、年齢を重ねた従業員は若い従業員を育成し指導することにも長けており、これは事業の継続や知識の空白問題を緩和する。この傾向は、特にエネルギー産業で明確に見受けられる。サウジ・アラムコは最近のアジアでの採用活動で、高齢の従業員が最新の技術を使っているイメージ戦略の下、リタイアした掘削のエキスパートをに相次いで採用しており、マレーシア沖に新たに入手したオフショアの製油所にそれらの人材を投入している。 年齢を重ねたベテラン社員は、自身のことや自分が仕事や雇用主に何を求めているのかも良く知っている。彼らは面談時に、自身が幸福になるための給料を得るための交渉に長け、どういったチャンスが自分のスキルや能力に一番合うのかという感覚も鋭い。彼らは若い世代よりもはるかに社会的義務感を持った大人であり雇用主に一定の忠誠心をささげるが、これは、様々な関心事に優先順位をつけかねている若い世代には難しいだろう。雇用主にとっては、この安定感や幸福感が職場の文化に非常に価値のある効果があるのだ。離職率の低下や生産性の向上、そして社員のやる気の向上につながる。ベテラン社員は、職場において自分の居場所や自分自身をまだ探している若い従業員に対する、完璧な指標なのだ。 多くの国で引退の年齢が上がっていることで、労働人口において現役の高齢の人材が増えてきているのは心強いことだ。結果的に世代をまたぐ労働人口は雇用主だけでなくいずれは経済環境全体に恩恵をもたらすだろうし、社会保障への依存を減らすだろう。   価値観の継承   成功している企業というものはそれぞれ独自の価値観を持っている。VIPの顧客サービスを優先する企業もあれば、新しい技術の力を優先したり、もしくは環境を意識する企業もある。長い時の中では、企業が自分達の使命や価値観を見失って自社の過去を振り返り、将来のために新しい方向性を探すこともある。例えば、1997年、アップルは赤字に苦しんでいた。役員達は、会社の財政回復に乗り出すためには共同創立者であったスティーブ・ジョブズを再雇用するしかないと決定した。(マイクロソフトのWindows95が市場を席巻していたのだ。)スティーブ・ジョブズの技術の破壊への理解や業界への反発そして滑らかで美しい製品への情熱が、アップルに過去の栄光を取り戻した。これにより、流線形の製品の新たな継承が世界に紹介され、それは今日の文化に大きな影響を与えている。 年齢を重ねたベテラン社員により、企業の価値観が継承される。革新や競争への絶え間ないプレッシャーは、時には企業を誤った方向へと押しやり、何百万というコストを無駄にさせることもある。外部からのプレッシャーにより、企業がその資産やブランド価値を損ないかねない製品や行いに傾いてしまいそうな時に、ベテラン社員は長い年月で自身に取り込んだ会社の価値観を示すことができる。考えてみてほしい。1955年にフォーチュン500を構成していた企業のうち2016年に残っていたのはたったの12%なのだ。もちろん、時間と技術が進むにつれてビジネスの状況も変化しているが、それでも確かに、多くの企業は自身の北極星を見失ったがために消えてしまった。高齢の従業員は、高齢の家族と同じように、過去と未来の懸け橋となれるのだ。   新たな競争力となるダイバーシティ   企業が競争をどうにかして勝ち抜こうと模索するうちに、彼らは多様な人材の持つ力に気づき始めている。最新のテクノロジーやビジネス戦略をもってしても、多様なグループの人々が問題解決のためにアイディアを出し合うことで生まれる純粋な力を引き出すことはできないのだ。異なる背景や経験を持ちテーブルに着いているブレインが多ければ多いほど、ユニークで革新的なアイディアを生み出すチャンスは大きくなる。そして、年齢を重ねた従業員がいないグループは真の多様性を持っているとは言えない。異なる文化、人種、性別、そして年齢の従業員が一緒に働くことで全く予想もしていない新しい何かを生み出す、そういったマジックを、優れたビジネスリーダー達は見てきている。ブランドや企業そのものをその産業の第一線に押し上げるほどの、何かを。 年齢を重ねた従業員は、多様性のある人材にとっての道標だ。ビジネスが失敗や困難に(遅かれ早かれ必ず)直面すれば、ベテラン社員は指導したり見通しを教えてくれる。企業の人材というものはコミュニティであり、このコミュニティには、地に足の着いた洞察力を持つ従業員が必要なのだ。好況も不況も、あらゆるタイプの経済の浮き沈みや産業の変革を生き抜いてきたベテラン社員が。また、ベテラン社員は単純に、若い社員よりも経験がある分人生についてよく知っている。若い従業員が仕事と家庭のバランスに悩んだり、業績に影響を与えるような他の問題にぶつかった時には、年齢を重ねた従業員に相談すればアドバイスをもらえる。この価値は、年間の予算には表れないが、企業が成功するかもしくはフォーチュン500のリストから消えるかを決定づけるだろう。   1 Cognitive Predictor and Age-Based Adverse Impact Among Business Executives, Klein et al. 2015 2 Carstensen, Fung, & Charles, 2003; Charles, Piazza, Luong, & Almeida, 2009

Puneet Swani | 30 10 2018
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「定年退職」は少々時代遅れの考え方と言えるだろう。映画ビデオのレンタルショップ、ジージーと音を立てるダイアルアップ式のインターネット回線や、折り畳んでも元の形に戻らないかさばる地図と同じぐらい過去のものである。我々は今は違う時代に生きている。現代人は長寿でスマートに暮らし、高い生産性を生み出している。そのような時代に職場も適合しなければいけない。ある特定の年齢で男女を退職に追い込むことは不公平であるだけでなく、近視眼的でもある。人は今日、60代半ば以降でもまだまだビジネス、社会そして自分自身に与える事の出来る多くの価値を持つ。   過去とは違う加齢の概念   職場における文化や社員ガイドラインの多くが、技術の発展やオートメーション(自動)、人類発達の進化のペースに追いついていない。人の生活や年齢のとり方は数十年前と比較しても大きく変化している。 例えば平均寿命に関する1965年の統計を見てみよう。 同じ国について2016年の統計を見てみよう。 これらの数字に唖然とする。わずか 51 年の間に人類の寿命は劇的に延びている。仕事のやり方、家族の養い方、そして人生における仕事の意味を含め、人であることの意味の全てを変化させた。技術やオートメーションが高齢従業員のニーズ、スキル、そして才能に対応していくようになれば65歳以上の従業員にとっての未来は明るい。   高齢労働者の時代におけるオートメーション   何十年もの間、従業員は職場に朝出社し夜に退社するという厳しく管理されたワークスケジュールに伝統的に従ってきた。その後従業員が65歳に達すると(もしくはその国で定年とされる歳になると)そうした支配は突然終わり、一定の年齢を超えるとピーク時の能力でその人はもう機能出来ないというロジックのもと、定年生活を強いられる。また人生の晩年になってまで働きたい人は誰もいない。時代は変わった。多くのプロフェッショナルにとって労働は単に仕事ではなく、他者との絆であり、その人の価値を社会に示すことであり、心的・知的能力を鋭く保ち、そうした能力を発揮し成長させていくことでもある。 オートメーションは幸いにも定年の力学を崩壊させている。先端技術と人材管理ソフトは、定年退職をした従業員を彼らのライフスタイルに合った新しい形態で雇用し、スケジュールを組み給料を支払うことを可能とした。多くの企業は、シニアの社員を若い社員のメンターや教師、ロールモデルとしてその価値を活用している。不本意に退職を強いられる代わりに、シニア社員は非常勤従業員で構成される柔軟な労働力の一員となることができる。雇用者側も、シニア社員をフルタイムの社員として雇い続けるか、もしくは退職によりその労働力を完全に失うかの二者選択が不必要となるメリットがある。シニア社員は、プロフェッショナルとしての責任や同僚との繋がりを維持しつつ、雇用側はシニア社員が持つ優れた組織的な知識と価値を活用し続ける事が出来る。   結論:オートメーションと未来の仕事   キャリアは生涯の投資である。長いこと、時代遅れの職場方針は勤勉なプロフェッショナルに生活の喜びと対価から不公平な断絶を強いてきた。オートメーションはシニア社員が自らのキャリアとの繋がりを継続しながら、若い社員に変化に対応するをする機会を与える。殆どの人にとって一生にすらならないこの51年間で人間の寿命がこれほど著しく進化したのであれば、この間にこの変化を目の当たりにした人々、そしてそれが人生の一部である人は、年齢を重ねることで得られる非常に貴重な経験と知恵を持っていることになる。オートメーションはこれからも人の仕事のやり方を変革していくであろうが、それは決して知識や才能、経験が無意味になるということではない。将来的には単調で反復的な作業や低レベルのスキルの仕事が減ると思われるが、ベテラン社員の指導や物事に対する見方や洞察、見通しや見識は常に必要とされるものである。将来は、65歳になるという事はその人のキャリアを祝う時で、キャリアに別れを告げる時ではなくなるであろう。

Neil Narale | 16 10 2018
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リタイアメントは世界的に変化しています。これは数十年にわたり、終身雇用制と国の年金が実質保障されてきた日本には特に当てはまります。しかし、21世紀は日本とそこに暮らす人々のライフスタイルに多くの変化をもたらしました。結果として、現代の労働力も進化しています。 企業は終身雇用を廃止しつつあります。その慣習が企業に重荷を課すためです。若い人々は安定性と給与だけでなく、プロとして成長するためにどのような支援が得られるか、そして良い条件でリタイアできるかなど、キャリアについてより戦略的に考えています。 先日実施されたマーサーの研究「Healthy, Wealthy and Workwise: The New Imperatives for Financial Security (健康で、豊かに、賢く働く: 経済的安定のための新たな緊急課題) 」では、経済的安定性に対する態度と退職に関する信念について調査しました。12カ国で実施した調査では、6つの年齢集団に属する7,000人の成人および600人の企業/政府幹部職員を対象としました。 この調査の結果、日本では経済的安定性が低く、日本人は他の国の人よりも自分の経済的状況にストレスを感じている可能性が高いと判明しました。 日本人を心配させるのは、経済だけではありませんでした。健康、富、キャリア、すべての基準において、日本の自信は調査された他のどの国よりも大幅に低いことがわかりました。この主たる原因は、退職に対する古いアプローチです。つまり、終身雇用への過度の依存と国の年金制度というセーフティネット、これらは現在過渡期にあります。   国への依存により引き起こされた貯蓄格差   他のアジア諸国と比べ、特に中国と比較し、日本は重大な貯蓄格差に直面しています。特に、50才以上の人々の間で格差が大きくなっています。しかし、これは主に、どう退職が設計されていたかに起因するかもしれません。日本の労働者にはかつて年功序列制の給与体系を持つ終身雇用制度があり、その給与に基づく国の年金制度がありました。現在、厚生労働省はプライベートセクターで働く一般的労働者に支給される国の年金の目標額は所得の50%と発表しています。 また、日本の健康保険制度が非常に優れていることにも注目すべきです。退職後、健康のための出費は大きな割合を占めるため、医療費の大部分を国が負担すると人々が把握していることも日本の貯蓄率が他国に比べて低い1つの要因かもしれません。 世界中でも、また日本でも、人々は、経済的に安定した退職と、良質な退職後の生活のために最も重要な要素として、現在および将来の健康を挙げています。しかし、日本では「仕事のパフォーマンスに関連するため、最高または非常に優れた健康状態である」と回答した人は全回答者の12%しかいませんでした。これは世界平均の39%と比較して、大幅に低い数値です。   経済状況に対する悲観的な見方が強いということは、金融リテラシー向上のための機会が多く存在することを示しています。   日本では、経済的安定性と退職制度について控えめな、場合によっては悲観的な展望があります。 1990年初頭にバブル経済がはじけるまでの、伝統的なパターンは、社員は大学卒業後すぐに会社に入社し、60才で定年を迎えるまでその会社で働くというものでした。退職後は国が年金と健康保険を提供しました。これは大規模な多国籍企業で働いていた場合には、特にそうした条件が該当しました。平均的労働者は退職について、それほど心配する必要はありませんでした。 バブル経済の崩壊後に起こった20年にわたる不況で、多くの企業が財務的苦境に陥りました。その結果、年金支給額は削減され終身雇用制度の約束は切り崩されました。大学を卒業する若い人々は、親の世代の退職の選択肢がもはや自分たちには該当しないと気付きました。日本が定年の年齢を、ほとんどの先進国よりも若い、65才に引き上げた際も、彼らは古いファイナンシャルプランニングのやり方に依存することは持続可能ではないと知っていました。唐突に、退職に備えた計画が個人の責任になったのです。 多くの日本人は現在、貯蓄が個人の責任であると気付いています。しかしこれは新しい概念であるため、その方法については曖昧なままです。経済に関する教育と指導は最低限しか行われていません。 日本人の回答者の半数 (49%) は、快適な退職後の生活を送るために経済的安定が必要であると答えており、現時点で経済的に安定していると感じている人は4分の1 (28%) にとどまりました。また、望ましい生活の質を退職後に維持できると予想している回答者は4分の1未満 (21%) でした。最も驚くべきは、退職後の収入を確保するのに十分な貯蓄があるという自信があると答えた回答者はわずか8%でした。 調査ではまた、日本では84%の人がトレードオフに前向きであることがわかりました。つまり、より良く、より長い未来のために、より多くを貯蓄に回し出費を抑えるということです。しかし16%は、退職後に希望する生活の質を維持できないことになっても、現在のライフスタイルを変えるつもりはないと答えています。これは、日本人の労働者は長期間労働し、65歳以降まで定年退職しないと見込んでおり、一生退職することはないと感じる傾向が他の国の人よりも強いからかもしれません。   長生きとは、退職後の生活を短く、質素にすること   今日、日本人は退職後12~17年を過ごすと予想されています。これは世界平均の15~20年よりも短い期間です。そうした現実から、福利厚生は柔軟性を持つことが求められます。退職後のニーズと貯蓄形態は単一ではなく、働き続けるか、ライフスタイルを変えるかの意思決定に影響を与えます。 「健康で、豊かに、賢く働く」調査では、日本人の成人の半数以上 (53%) が80才以上まで生きると予想していることが判明しました。しかし、73%の人々は退職するつもりがないか、何らかの形で退職後も働き続けると予見しています。これはグローバル調査の12か国の中でも最も高いレベルです。そして26%は、従来の定年の概念を超えて雇用可能なほどに自らのスキルセットを維持することが、労働者の年齢が上がるにつれ困難になるという事実にも関わらず、退職後の主な収入源として給与が発生する仕事を続けると回答しています。 ほとんどの人が政府が提供する年金と個人の貯蓄、そして給料を組み合わせたものを財源とし、退職後は質素な暮らしをすると予測しています。退職後の生活を送るのに十分な収入を確保する責任者として、家族と自身が重視されています。 日本人は雇用主がアドバイスを提供してくれると信頼していますが、退職後の生活の計画や貯蓄、投資については、他の人や組織に対しあまり信頼を寄せない傾向があります。さらに個人は、雇用主の年金制度よりも、政府の公的年金に積み立てる傾向があります。日本では、雇用主の年金制度は潜在的な収入源とみなされることがあまりありません。   変化の機会   日本は現在、退職に対する重複するアプローチを取っています:上の世代はまだ当然のこととして終身雇用と年金制度を期待し、若い世代は自分の老後のために自分で貯蓄する必要があると理解し、それに従ってキャリアプランニングを行っています。 それを鑑みると、国家レベルで変化の機会があります。おそらく社会保障は贅沢なものではなく、単なるセーフティネットとして、80歳代の人など、だいぶ上の世代の人にのみ利用可能なものとして認識されるべきかもしれません。退職の制度が更新され、仕事と企業年金を組み合わせたら、人々は自らの財務上のニーズについてより正確な評価を下すことができるかもしれません。 現状、若い世代は貯蓄については新しい領域に直面していると感じており、多くの場合、資料や教育も多くはありません。世界的に見ても日本に限っても、健康で豊かに賢く働くことは、より長く働き、自分の健康や貯蓄、職務スキルに今投資することを意味します。そうするために、労働者は雇用主や国に個人的に力づけられる必要があり、雇用主も国も、現代の労働者の進化し続けるニーズに対応すべく変化の機会を模索するべきです。

北野 信太郎 | 12 6 2018
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かつて就業者は65歳前後で引退し、年金、貯蓄、家族の支援を頼りに老後の生計を立てていました。しかし、より多くの人が健康を保ち長生きするようになった現在、60代半ばで退職することはもはや魅力あるものではなくなりました。 多くの人が60代から70代に入っても仕事を続けるつもりでいます。単に働きたいからというよりは、お金が必要であるという理由のほうが現実的です。 マーサーの最近の調査「健康で、豊かに、賢く働く - 経済的安定のための新たな緊急課題」では、経済的安定に影響を与える要因と退職のあり方について考察しました。12カ国で実施した調査では、6つの年齢集団に属する7,000人の成人および600人の企業/政府幹部職員を対象としました。調査対象者の3分の2 (68%)以上が、従来の定年退職の年齢を超えても働き続けると思うと回答しています。 今日、働き方と「退職」は根本的に変わってきています。この変化に雇用主と従業員の両方が適応する必要があります。これは、アジアとラテンアメリカのような成長市場に特に当てはまります。急速に拡大しているこのような市場の中間層は、将来に対して楽観的です。しかし、新しく手に入れた質の高い生活を晩年も維持できるようにするツールが必要となります。   都市化   高齢者人口が都市化経済に直面する状況において、都市化の問題は、多世代の従業員および家族構成にも影響を及ぼします。例えば、伝統的に若年層が高齢者を支えている中国では、2030年までに総人口の60%が都市部に居住することが予想されており、都市化は中国の物理的および文化的な構造を形作っていくことになります。現在、中国の家庭では、労働力の移動が非常に困難であるうえ、住居費、交通費、食費が急騰する状況に直面しています。 ラテンアメリカも世界で最も急速な都市化が進む地域の一つです(都市化率はEU諸国が74%、東アジア/太平洋地域では50%)。国連ハビタット(国際連合人間居住計画)では、2050年までにラテンアメリカの都市に同地域の総人口の90%が集中すると予想しています。中国と同様に、ラテンアメリカもこれまで家族重視文化であったため、都市化が家族構成および労働力移動における変化やひずみを生み出す可能性があります 1 。   退職という概念からの脱却   今日、世界平均で人は退職後に15~20年生きると見込まれています。しっかりした計画を立てないと、私たちの多くは、貯蓄が底をつくことになるか、生活の質を落とすことを迫られることになります。こうした状況は、雇用主が提供する退職金制度が未整備であることが多く、政府が提供する年金制度の持続性が危ぶまれる多くの成長経済市場においてより深刻化します。退職者1人に対する労働力人口の比率は、今後20年間で大幅に下がり、世界平均で現在の1:8から2050年までに1:4となります2 。 チリ、中国、ブラジルといった国々では、その半分の1:2 となります。このことは社会保障制度に極めて大きな負担をかけることになります。この負担は、多くの成長国における非公式労働者の割合に比例して増えます。一部の国では、非正規労働者が全体の50%を占めることがあります。こうした労働者は、社会保障制度や老齢年金制度において掛金の拠出や給付金受け取りに寄与することはないと思われます。このことは、個人だけでなく、マクロ経済にも大きな影響を及ぼすことになります。3 年金支出の対GDP比率もまた成長市場で上昇傾向にあります。人口高齢化と相まって、政府の年金制度の持続可能性はさらに低下しています。例えば、イタリア、ギリシャ、ウクライナの年金支出の対GDP比率は最も高い約16%です。2000年に約10%だったことを考えると、年金支出がいかに急増しているかが分かります。ポルトガル、フランス、オーストリア、スロベニア、スペイン、フィンランドを含む、他の多くの欧州諸国も割合はかなり高くなっています(11%以上)。ちなみに、現在、米国の公的年金支出の対GDP比率は7%、日本とハンガリーは10%です。4 急速に高齢化が進む社会において、企業は様々な従業員(一般に離職率が高いミレニアル世代から、経済的安定を求める非正規労働者やより長く働いて老後資金を確保できるよう健康維持を願う高齢労働者まで)のニーズを満たす制度を提供するにあたり、極めて柔軟に対応する必要があります。2010 年時点で、世界全域の65歳以上人口に占める東アジア/太平洋の成長地域の割合は36%です。2015年から2034年までの間に、東アジアの高齢者人口だけで5年毎に約22%増加すると予測されています。5 高齢化および都市化の進む成長市場をうまく乗り切るために、雇用主は多世代にわたる労働力に対応できるよう準備する必要があります。就業者の高齢化が進み、引退せずに働き続ける人が増えています。さらに、より多くの高齢労働者が都市部に居住する傾向が高まるにつれ、労働力の移動や業界の選択肢は減ることになります。言うまでもなく、中間層および富裕層が都市部の不動産を取得することで生活費は上昇する一方となります。このことは個人が健康で長生きすることを妨げる要因になります。 仕事と退職に対して雇用主と従業員が異なった期待を抱くことは、双方にとって有益となる場合があります。経験豊富な高齢労働者は非常に貴重です。そうした高齢労働者に、より長く貢献してもらう方法を見出した雇用主は競争優位性を持つことができます。 異なる職務内容や労働時間で、さらに10年または20年(あるいは30年)働く機会が提供されれば、それだけ貯蓄や投資に充てることができる年数が増えることになります。どのようなキャリア人生を設計しても長期に渡って堅実な貯蓄プランを維持できるようにすることが理想です。そうすることで、休職する人、柔軟な勤務形態を選ぶ人、非正規市場で働く人もより良い退職後の人生を実現できるようになるかもしれません。 政策的観点から見た場合、引退年齢の引上げまたは廃止を検討する時が来ています。同様に、多くの国は従来の引退年齢を過ぎても働く人にインセンティブを与えることを検討する必要があります。例えばシンガポールのような経済成長を続ける一部の国は、そうしたインセンティブ制度の導入に成功しているものの、より長く働くことを奨励する社会年金制度は依然として多くありません。   個人ができること   どの国の調査回答者も、自己の責任で引退準備をするべきだと感じており、その大半は貯蓄できると楽観的に考えています。例えば中国は将来に対しての楽観性で最上位です。調査回答者の70%が、完全に引退した後でも生活の質を維持できると見込んでいます。これは、急速に拡大する中間層および伝統的な貯蓄文化に起因しているかもしれません。この貯蓄は必ずしも引退後の生活に当てられるものとは限りませんが、中国では将来のために貯蓄することは日々の生活の一部なのです。 一方、世界で2番目に古い社会組織を持つとされる日本における経済的安定は非常に低く、調査回答者の72%は経済的に安定していると感じないと回答しています。完全に引退した後も希望する生活の質を維持できると回答した人の割合は21%、退職後の収入源となる十分な貯蓄をできたと確信を持っていると回答した人の割合は8%に留まっています。調査回答者の78%が各自の経済状態について何らかのストレスを感じていると回答していることは驚くに当たりません。ストレスの要因として挙げられたのは、「健康上の問題がある」、「公的年金が当てにできない」、「引退に向けて十分に貯蓄していない」などです。 日本に限らず、世界各国が高齢化社会に直面する中、この憂慮すべき統計は、措置を講じなければ長期的な貯蓄ギャップが悪影響をもたらすという警告の役割を果たします。私たちは、自己の責任で引退に向けた周到な準備をすべきであることを認識しているものの、経済的安定を高めるために必要な行動を取っていません。 調査回答者の85%は、より長く生きるために、もっと貯蓄する、生活レベルを下げる、といったトレードオフが必要であることを認識したうえで、現在のライフスタイルを変える意思があると回答しています。可処分所得のより大きな割合を貯蓄する意思があると回答した人の割合は40%、支出を減らして生活レベルを下げる意思があると回答した人の割合は32%でした。そして、パートタイムの仕事に就く意思があると回答した人の割合は27%でした。調査回答者は、検討すべきトレードオフに関する優れたガイダンスを求めています。   雇用主ができること   必要な老後資金の額は従業員によって異なるため、柔軟な対応が極めて重要となります。従業員はいつまで働くかを自ら決定することを望んでいます。特に従業員は従来の引退年齢を超えて働き続けることを希望しているため、従業員の退職手当を見直すことが雇用主の果たす重要な役割となります。これは、多くの場合、特に人材の確保が困難になっている現状では、雇用主が高齢労働者の経験と知識・技能から恩恵を受けることを意味します。 雇用主は従業員が経済的に余裕のある状態になるよう支援することで大きな見返りを得ることができます。調査結果によると、経済的に安定していない従業員は、ストレスが多く注意散漫であり、生産性の低下、顧客サービスの低下、健康上の問題を招くとされています。実際、マーサーの調査では、全世界の調査回答者の40%が経済的に不安定な状況がストレスを引き起こしたと回答しています。 また、成人の79%は、雇用主がファイナンシャルプランニングに関して確かな助言を提供してくれることを確信していると回答しています。従業員の86%は、雇用主が福利厚生を改善したり、投資プランの選択肢を増やしたりしてくれれば、仕事の満足度や会社への忠誠心が高まるとしています。言い換えれば、従業員は、雇用主からの支援を期待しているのです。 お金に関する心配事は、職場での生産性を大きく低下させることになりますが、雇用主から従業員に対して、長期貯蓄に関する選択肢を含む、お金に関するより賢い決定をするための適切な金融ツールや金融関連情報を入手する支援を提供すれば、そうした事態を回避できる可能性があります。実務上の便益以上に、従業員が経済的安定を達成できるよう雇用主が支援することは、雇用主として当然のことなのです。 これらのツールは、特にミレニアル世代に対して効果があります。ミレニアル世代は、今日の労働力の中で最も経済的に不安定な世代です。ミレニアル世代の93%は、ツールが使い易くて、データの安全性が確保される限り、支出、健康、個人データを追跡・管理するのに役立つオンラインツールを使用する意思があると回答しています。調査対象のミレニアル世代の82%は、貯蓄が老後の生計に与える影響を理解できれば、もっと貯蓄をするだろうと回答しています。 ただし、同様の関心度を示さない回答者群も存在します。成人の52%は、ロボアドバイザーが自動化されたシステムを通じてアドバイスを提供することに抵抗を感じています。ファイナンシャルアドバイザーが対応するコールセンターについても同様の感情を抱いています。これは、ガイダンスやアドバイスについては個人対応を求めていることを意味します。 雇用主は、貯蓄という行為をエンゲージメントの高い体験へと転換して、分かりやすい用語、ツール、リアルタイムで貯蓄額や達成状況を把握する機能を通じて貯蓄目標を達成できるようにする必要があります。そうすることで、1970年代と1980年代のフィットネス革命と、パフォーマンスの追跡・向上や動機付けに役立つ最新のデジタルツールの追い風を受け、過去数十年に渡ってフィットネス業界が飛躍的進歩を遂げたのと同様な進歩を遂げることができるかもしれません。   今行動を起こして、より良い老後を送る   個人が全責任を負うのではなく、企業と政府も今行動を起こすべきなのです。長期貯蓄制度や商品を、人口動態や経済環境の変化に適応させることは急務です。現在予想されている道筋を辿れば、職場での生産性が低下することに加えて、多くの人々が貧困に陥るリスクにさらされることになります。独創的かつ戦略的な思考を適用することで、多くの人々の将来を変えることができます。 現代の多様な社会制度および就労経験を反映するために、引退に向けた貯蓄のダイナミクスを変える必要があります。経済的安定が、雇用者が提供する制度を享受できる人々に限定される、特定の性別にとって有利である、若年層が犠牲になって高齢者を支える、といった状況で実現されるものであってはなりません。公営企業と民間企業は、力を合わせてすべての人々に経済的安定がもたらされるようにしなければなりません。 1 出典: UN Habitat, 2012 2 United Nations Population Data, 2017 3 出典: World Bank, 2017 4 出典: OECD, 2015 5 出典: World Bank, 2015 6 出典: World Bank, 2015

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