退職 + 健康

世界規模で変わりゆく退職の姿

2018年6月12日
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「高齢者人口が都市化経済に直面する状況において、都市化の問題は、多世代の従業員および家族構成にも影響を及ぼします。」

かつて就業者は65歳前後で引退し、年金、貯蓄、家族の支援を頼りに老後の生計を立てていました。しかし、より多くの人が健康を保ち長生きするようになった現在、60代半ばで退職することはもはや魅力あるものではなくなりました。

多くの人が60代から70代に入っても仕事を続けるつもりでいます。単に働きたいからというよりは、お金が必要であるという理由のほうが現実的です。

マーサーの最近の調査「健康で、豊かに、賢く働く - 経済的安定のための新たな緊急課題」では、経済的安定に影響を与える要因と退職のあり方について考察しました。12カ国で実施した調査では、6つの年齢集団に属する7,000人の成人および600人の企業/政府幹部職員を対象としました。調査対象者の3分の2 (68%)以上が、従来の定年退職の年齢を超えても働き続けると思うと回答しています。

今日、働き方と「退職」は根本的に変わってきています。この変化に雇用主と従業員の両方が適応する必要があります。これは、アジアとラテンアメリカのような成長市場に特に当てはまります。急速に拡大しているこのような市場の中間層は、将来に対して楽観的です。しかし、新しく手に入れた質の高い生活を晩年も維持できるようにするツールが必要となります。

 

都市化

 

高齢者人口が都市化経済に直面する状況において、都市化の問題は、多世代の従業員および家族構成にも影響を及ぼします。例えば、伝統的に若年層が高齢者を支えている中国では、2030年までに総人口の60%が都市部に居住することが予想されており、都市化は中国の物理的および文化的な構造を形作っていくことになります。現在、中国の家庭では、労働力の移動が非常に困難であるうえ、住居費、交通費、食費が急騰する状況に直面しています。

ラテンアメリカも世界で最も急速な都市化が進む地域の一つです(都市化率はEU諸国が74%、東アジア/太平洋地域では50%)。国連ハビタット(国際連合人間居住計画)では、2050年までにラテンアメリカの都市に同地域の総人口の90%が集中すると予想しています。中国と同様に、ラテンアメリカもこれまで家族重視文化であったため、都市化が家族構成および労働力移動における変化やひずみを生み出す可能性があります 1

 

退職という概念からの脱却

 

今日、世界平均で人は退職後に15~20年生きると見込まれています。しっかりした計画を立てないと、私たちの多くは、貯蓄が底をつくことになるか、生活の質を落とすことを迫られることになります。こうした状況は、雇用主が提供する退職金制度が未整備であることが多く、政府が提供する年金制度の持続性が危ぶまれる多くの成長経済市場においてより深刻化します。退職者1人に対する労働力人口の比率は、今後20年間で大幅に下がり、世界平均で現在の1:8から2050年までに1:4となります2

チリ、中国、ブラジルといった国々では、その半分の1:2 となります。このことは社会保障制度に極めて大きな負担をかけることになります。この負担は、多くの成長国における非公式労働者の割合に比例して増えます。一部の国では、非正規労働者が全体の50%を占めることがあります。こうした労働者は、社会保障制度や老齢年金制度において掛金の拠出や給付金受け取りに寄与することはないと思われます。このことは、個人だけでなく、マクロ経済にも大きな影響を及ぼすことになります。3

年金支出の対GDP比率もまた成長市場で上昇傾向にあります。人口高齢化と相まって、政府の年金制度の持続可能性はさらに低下しています。例えば、イタリア、ギリシャ、ウクライナの年金支出の対GDP比率は最も高い約16%です。2000年に約10%だったことを考えると、年金支出がいかに急増しているかが分かります。ポルトガル、フランス、オーストリア、スロベニア、スペイン、フィンランドを含む、他の多くの欧州諸国も割合はかなり高くなっています(11%以上)。ちなみに、現在、米国の公的年金支出の対GDP比率は7%、日本とハンガリーは10%です。4

急速に高齢化が進む社会において、企業は様々な従業員(一般に離職率が高いミレニアル世代から、経済的安定を求める非正規労働者やより長く働いて老後資金を確保できるよう健康維持を願う高齢労働者まで)のニーズを満たす制度を提供するにあたり、極めて柔軟に対応する必要があります。2010 年時点で、世界全域の65歳以上人口に占める東アジア/太平洋の成長地域の割合は36%です。2015年から2034年までの間に、東アジアの高齢者人口だけで5年毎に約22%増加すると予測されています。5

高齢化および都市化の進む成長市場をうまく乗り切るために、雇用主は多世代にわたる労働力に対応できるよう準備する必要があります。就業者の高齢化が進み、引退せずに働き続ける人が増えています。さらに、より多くの高齢労働者が都市部に居住する傾向が高まるにつれ、労働力の移動や業界の選択肢は減ることになります。言うまでもなく、中間層および富裕層が都市部の不動産を取得することで生活費は上昇する一方となります。このことは個人が健康で長生きすることを妨げる要因になります。

仕事と退職に対して雇用主と従業員が異なった期待を抱くことは、双方にとって有益となる場合があります。経験豊富な高齢労働者は非常に貴重です。そうした高齢労働者に、より長く貢献してもらう方法を見出した雇用主は競争優位性を持つことができます。

異なる職務内容や労働時間で、さらに10年または20年(あるいは30年)働く機会が提供されれば、それだけ貯蓄や投資に充てることができる年数が増えることになります。どのようなキャリア人生を設計しても長期に渡って堅実な貯蓄プランを維持できるようにすることが理想です。そうすることで、休職する人、柔軟な勤務形態を選ぶ人、非正規市場で働く人もより良い退職後の人生を実現できるようになるかもしれません。

政策的観点から見た場合、引退年齢の引上げまたは廃止を検討する時が来ています。同様に、多くの国は従来の引退年齢を過ぎても働く人にインセンティブを与えることを検討する必要があります。例えばシンガポールのような経済成長を続ける一部の国は、そうしたインセンティブ制度の導入に成功しているものの、より長く働くことを奨励する社会年金制度は依然として多くありません。

 

個人ができること

 

どの国の調査回答者も、自己の責任で引退準備をするべきだと感じており、その大半は貯蓄できると楽観的に考えています。例えば中国は将来に対しての楽観性で最上位です。調査回答者の70%が、完全に引退した後でも生活の質を維持できると見込んでいます。これは、急速に拡大する中間層および伝統的な貯蓄文化に起因しているかもしれません。この貯蓄は必ずしも引退後の生活に当てられるものとは限りませんが、中国では将来のために貯蓄することは日々の生活の一部なのです。

一方、世界で2番目に古い社会組織を持つとされる日本における経済的安定は非常に低く、調査回答者の72%は経済的に安定していると感じないと回答しています。完全に引退した後も希望する生活の質を維持できると回答した人の割合は21%、退職後の収入源となる十分な貯蓄をできたと確信を持っていると回答した人の割合は8%に留まっています。調査回答者の78%が各自の経済状態について何らかのストレスを感じていると回答していることは驚くに当たりません。ストレスの要因として挙げられたのは、「健康上の問題がある」、「公的年金が当てにできない」、「引退に向けて十分に貯蓄していない」などです。

日本に限らず、世界各国が高齢化社会に直面する中、この憂慮すべき統計は、措置を講じなければ長期的な貯蓄ギャップが悪影響をもたらすという警告の役割を果たします。私たちは、自己の責任で引退に向けた周到な準備をすべきであることを認識しているものの、経済的安定を高めるために必要な行動を取っていません。

調査回答者の85%は、より長く生きるために、もっと貯蓄する、生活レベルを下げる、といったトレードオフが必要であることを認識したうえで、現在のライフスタイルを変える意思があると回答しています。可処分所得のより大きな割合を貯蓄する意思があると回答した人の割合は40%、支出を減らして生活レベルを下げる意思があると回答した人の割合は32%でした。そして、パートタイムの仕事に就く意思があると回答した人の割合は27%でした。調査回答者は、検討すべきトレードオフに関する優れたガイダンスを求めています。

 

雇用主ができること

 

必要な老後資金の額は従業員によって異なるため、柔軟な対応が極めて重要となります。従業員はいつまで働くかを自ら決定することを望んでいます。特に従業員は従来の引退年齢を超えて働き続けることを希望しているため、従業員の退職手当を見直すことが雇用主の果たす重要な役割となります。これは、多くの場合、特に人材の確保が困難になっている現状では、雇用主が高齢労働者の経験と知識・技能から恩恵を受けることを意味します。

雇用主は従業員が経済的に余裕のある状態になるよう支援することで大きな見返りを得ることができます。調査結果によると、経済的に安定していない従業員は、ストレスが多く注意散漫であり、生産性の低下、顧客サービスの低下、健康上の問題を招くとされています。実際、マーサーの調査では、全世界の調査回答者の40%が経済的に不安定な状況がストレスを引き起こしたと回答しています。

また、成人の79%は、雇用主がファイナンシャルプランニングに関して確かな助言を提供してくれることを確信していると回答しています。従業員の86%は、雇用主が福利厚生を改善したり、投資プランの選択肢を増やしたりしてくれれば、仕事の満足度や会社への忠誠心が高まるとしています。言い換えれば、従業員は、雇用主からの支援を期待しているのです。

お金に関する心配事は、職場での生産性を大きく低下させることになりますが、雇用主から従業員に対して、長期貯蓄に関する選択肢を含む、お金に関するより賢い決定をするための適切な金融ツールや金融関連情報を入手する支援を提供すれば、そうした事態を回避できる可能性があります。実務上の便益以上に、従業員が経済的安定を達成できるよう雇用主が支援することは、雇用主として当然のことなのです。

これらのツールは、特にミレニアル世代に対して効果があります。ミレニアル世代は、今日の労働力の中で最も経済的に不安定な世代です。ミレニアル世代の93%は、ツールが使い易くて、データの安全性が確保される限り、支出、健康、個人データを追跡・管理するのに役立つオンラインツールを使用する意思があると回答しています。調査対象のミレニアル世代の82%は、貯蓄が老後の生計に与える影響を理解できれば、もっと貯蓄をするだろうと回答しています。

ただし、同様の関心度を示さない回答者群も存在します。成人の52%は、ロボアドバイザーが自動化されたシステムを通じてアドバイスを提供することに抵抗を感じています。ファイナンシャルアドバイザーが対応するコールセンターについても同様の感情を抱いています。これは、ガイダンスやアドバイスについては個人対応を求めていることを意味します。

雇用主は、貯蓄という行為をエンゲージメントの高い体験へと転換して、分かりやすい用語、ツール、リアルタイムで貯蓄額や達成状況を把握する機能を通じて貯蓄目標を達成できるようにする必要があります。そうすることで、1970年代と1980年代のフィットネス革命と、パフォーマンスの追跡・向上や動機付けに役立つ最新のデジタルツールの追い風を受け、過去数十年に渡ってフィットネス業界が飛躍的進歩を遂げたのと同様な進歩を遂げることができるかもしれません。

 

今行動を起こして、より良い老後を送る

 

個人が全責任を負うのではなく、企業と政府も今行動を起こすべきなのです。長期貯蓄制度や商品を、人口動態や経済環境の変化に適応させることは急務です。現在予想されている道筋を辿れば、職場での生産性が低下することに加えて、多くの人々が貧困に陥るリスクにさらされることになります。独創的かつ戦略的な思考を適用することで、多くの人々の将来を変えることができます。

現代の多様な社会制度および就労経験を反映するために、引退に向けた貯蓄のダイナミクスを変える必要があります。経済的安定が、雇用者が提供する制度を享受できる人々に限定される、特定の性別にとって有利である、若年層が犠牲になって高齢者を支える、といった状況で実現されるものであってはなりません。公営企業と民間企業は、力を合わせてすべての人々に経済的安定がもたらされるようにしなければなりません。

1 出典: UN Habitat, 2012
2 United Nations Population Data, 2017
3 出典: World Bank, 2017
4 出典: OECD, 2015
5 出典: World Bank, 2015
6 出典: World Bank, 2015

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Pat Milligan | 19 12 2019

平均寿命はここ数十年で急激に延びています。1960年には平均53歳に満たなかったのが、2017年には72歳となりました。高所得国では、平均寿命は80歳に届こうとしています。1 世界中で平均寿命と労働寿命が延びているため、就労生活における3大ステージ、すなわち「就学」、「就業」、「退職」に沿ったキャリアモデルにこだわる人は少なくなりつつあります。これに代わって広がりを見せているのがマルチステージという形です。一個人が正社員となり退社した後、パートタイムで働いたり、ギグエコノミーに参加したり、熟年期になって新しいことを学んだり資格を取得したりするスタイルです。 企業は、従業員の労働寿命が長くなり退職年齢が上がっている、この新たな現実に合わせてモデルや慣行、ポリシーなどを進化させていかなければなりません。労働寿命を延ばして高齢に至るまで生産性を維持するべく、「高齢化に備える」必要があります。これを怠れば、拡大しつつあるこの層から得られる利益を失うことになるでしょう。 また、こうした従業員が年齢差別を受けないように配慮することも大切です。雇用の平等に対する取り組み、そして徹底したダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(一体性)の戦略を採用している組織でも見過ごされがちなものです。 世界の人材、熟練社員 マーサーが発表したレポート「Next Stage:高齢化への備えはできていますか?」によると、平均寿命と労働寿命は世界中で延びているものの、アジア太平洋地域が最も熟練社員の増加の影響を受けています。 同レポートでは、2015年から2030年の間に65歳以上の人口が2億人を上回ると推計しています。日本は世界初の「超超高齢(ultra-aged)」社会を迎えつつあり、65歳以上が人口の28%を上回るようになります。香港、韓国、台湾が後に続いて「超高齢(super-aged)」社会を迎え、人口の21%以上が近く65歳以上になろうとしているのです。 平均寿命が延びていることから、高齢な従業員は難しい判断に迫られています。多くの人は新しいスキルを学びたい、他の人とつながっていたい、あるいは社会に貢献したいという動機で仕事をしています。しかし、そのような選択肢を持たない高齢な労働者も存在します。延びた寿命の生活資金を賄うためだけに働き続ける人たちです。 老後は出費がかさむこと、年金制度が脆弱化していること、所得格差を背景とした貯蓄不足、低金利などの要因により、かつては退職年齢の迫った社員が当たり前に享受していた安心感が揺らいでいます。継続雇用を望むベテラン社員の存在は、企業や若手従業員にとってかつてない課題であるとともに、機会でもあります。 先入観と偏見を取り除く 世界中の職場において、従業員の人種や性的指向、性別に関わる差別をなくす取り組みは大幅に進歩しているものの、年齢差別については見過ごされがちです。 熟練社員に対する誤解のうち、とりわけ根強く有害なものをマーサーのNext Stageレポートより紹介します。 1.     誤解: 「熟練社員は生産性が低い」 事実:加齢とともに仕事のパフォーマンスが低下するという思い込みが誤解であると証明する研究が多く存在します。 2.     誤解:「熟練社員は新たなスキルやテクノロジーを習得するのが困難」 事実:ここで障害となっているのは、高齢な従業員は新たなスキルの習得が困難ということではなく、往々にして特定のスキルや知識を向上させるために必要なトレーニングを受けていないということです。熟練社員を含む労働者のうち、85%がキャリア開発の可能性を高めるためにスキル開発の機会と技術的なトレーニングを積極的に求めているという研究があります。 3.     誤解:「熟練社員は多くの国で人件費がかさむ」 事実:年齢(と責務)が増すにつれて賃金が上昇する可能性はあるものの、離職率が少ないなど、別の面で雇用者のコストを大幅に削減することもできます。マーサーのデータでは、労働者の年齢が上がる中で、同レベルの役職の賃金に一定の低下が見られます。 熟練した労働者の生産性、学習意欲および能力、雇用者の支出に切り込んだマーサーの調査と分析では、ベテラン社員と若手社員の間に繊細で複雑な関係があることが明らかになっています。高齢な従業員の生産性が低かった事例においても、個人のパフォーマンスに焦点が当てられる一方、メンタリングやトレーニング、指導に充てた時間など、重要な要素が考慮されていませんでした。 熟練社員の価値を高める 企業は、円熟した従業員の才能やスキル、潜在能力を活用することを学ぶ必要があります。マーサーの「2019年グローバル人材動向調査」は、現代のテクノロジーを企業の人事システムに統合することで、ベテラン社員に有益なツールを提供し、価値ある新たなスキルを教えることができるとしています。これらのテクノロジーでは、専門的な学習機能と予測型のソフトウェアアルゴリズムを利用し、精選(キュレーション)されたキャリア開発パスを提供します。 企業の学習プラットフォームでは、特定のキャリア目標に関係するコンテンツを集めたりスキルギャップを埋めたり、また専門知識を共有する同僚とのネットワーク作りにも活用できます。キュレーション学習プログラムでは、従業員が自分のペースでスキルを開発し、個人的なキャリア目標のベンチマークに基づいて資格を取得することも可能です。 また、企業の多くは熟練社員の価値と貢献を正確に評価できていません。そのために高齢な従業員の職業能力開発の機会が制限されているのが現状です。マーサーのNext Stageレポートでは、熟練した労働者は、長年の実務経験から得た深い知識、事業に関連する社会資本、技術またはコンテンツの専門知識を通じて、組織のパフォーマンスに大きく貢献できるとしています。 また、傾聴やコミュニケーション、コラボレーション、チームビルディングなどの重要なソフトスキルは、一般的に軽視されがちです。業績評価や昇進の可能性、報酬など、一般的なパフォーマンス指標に頼る企業では、ベテラン社員の貢献を過小評価し、活用機会を逃してしまいかねません。 熟練社員の価値と可能性を最大限に高めることにより、雇用主はこれらの従業員の経験や知識、人生経験を活用する職業能力開発の機会を新たに創出できます。年齢は知恵を育みます。エンパワーメントによって活用された熟練社員は、過去の貴重な経験を道標にしつつ、企業を明るい未来に導いていけるはずです。 出典: 1. "Life expectancy at birth, total (years)." The World Bank, 2017, https://data.worldbank.org/indicator/sp.dyn.le00.in

Fabio Takaki | 19 12 2019

影響力を持つ女性たちには企業、業界、さらには国家を変革する力があります。マーサーのレポート「When Women Thrive Business Thrive ~女性が活躍するとき、企業も持続的に成長する~[T.M.1] 」によると、女性がリーダーとして働き生活している地域では、教育、健康、地域開発プログラムへの貢献度が高くなるとされています。 女性のリーダーが企業や地域社会にポジティブな影響を与えるにも関わらず、世界の大手金融機関のリーダーに女性は少ないのが現状です。また、女性たちは投資対象となる企業の経営陣にも低いウエイトでしか存在しません。オリバー・ワイマンの新しい報告書[T.M.2] (MMCグループ企業の一部) によると、世界の金融機関では経営幹部の20%、取締役会の23%を女性が占めていますが、CEOはわずか6%に留まっています。 しかし、伝統的に女性の昇進が最も難しいとされていた地域の1つの中東において、金融業界の経営幹部に女性が徐々に登用され始めています1。中東の金融業界で女性が地位を確保し地域社会や他の業界に波及していくにつれ、世界の経営者たちはこの動きに注力する必要があるでしょう。 中東の金融業界で活躍する女性の経営幹部 中東の金融業界ではますます多くの女性が、銀行、投資会社、金融、法律、コンサルティング関係の会社の経営幹部を務めています1。たとえば、2018年9月、ローラ・アブ・マネ (Rola Abu Manneh) 氏はスタンダードチャータードUAEのCEOに指名され、UAE初の女性頭取になりました。UAEの銀行業界で長年の経験を持つアブ・マネ氏は、重要案件を銀行に持ち込むナレッジとリーダーシップ力を発揮しています。マネ氏は、CEOに就任した最初の年に、ドバイに拠点を置くエマール・プロパティーズに対し、ホテルをアブダビナショナルホテルに売却するよう提言しました2。 もう一つ例を挙げるとすると、サウジアラビア最大の商業銀行、サンバ・フィナンシャル・グループ初の女性CEOのラニア・ナシャール (Rania Nashar) 氏です。商業銀行セクターで20年以上の経験を持つナシャール氏は、2017年にCEOに指名され、サウジアラビアの上場銀行初の女性CEOとなりました3。また、この瞬間をもってサウジアラビアKSAのビジョン2030の一環として男女平等を促進する改革が始まっており、ナシャール氏はこれを継続させたいと述べています。 「サンバ銀行ほどの規模の銀行でも女性CEOが指揮を執ることができ、史上最高の業績を上げられることを実証するだけでなく、サウジアラビアや世界のすべての女性のために示したいです」とナシャール氏は語り、付け加えました。「サウジの女性たちが誇れるお手本になりたいと思います」4 ルブナ・オラヤン (Lubna Olayan) 氏も、サウジアラビアの有力なリーダーの一人です。彼女は30年以上にわたって、湾岸地域でオラヤングループの貿易、不動産、投資、消費、産業関連の業務を行う持株会社オラヤン・ファイナンシング・カンパニーのCEOを務めました。また、タイム誌の「世界で最も影響力のある100人」、フォーチュン誌の「世界で最も有力な女性」への選出を含め、多数の賞を受賞し、女性の経済的権利の擁護者として評価されています5。 リーダーシップに重要なジェンダー平等 こうした女性のリーダーたちは、地域の金融業界の男女平等の推進と変革に貢献しています。進歩はしているものの、課題は山積みと言えるでしょう。政府はジェンダーの均等を促進するための取り組みを行っていますが、経営者たちのマインドセットを変え、バイアスを克服するには時間がかかります。 しかし、それは追求する価値のあるプロセスです。人手不足に直面している組織や国家にとって、女性の人材を活用することにより、競争、成長、成功のための戦略的な機会が提供され、経済全体の変革も促進されます。 マーサーのレポート「When Women Thrive Business Thrive ~女性が活躍するとき、企業も持続的に成長する~」によると、女性は供給者、育児・介護者、意思決定者、消費者として重要な役割を担っており、将来の世代の教育と健康、そして地域社会の発展に貢献しているとされています。女性幹部は、結束力の強いチームを作り、人材の維持、スキル開発、育成を行い、多様で新しい視点を組織にもたらす上でも寄与します。 実際、マーサーの調査は女性幹部の登用の増加が、地域社会や国家における経済的および社会的発展に影響を与えることも示唆しています。エコノミストは、男女の雇用格差を是正することで国内総生産を米国で5%、日本で9%、アラブ首長国連邦で12%、ヨーロッパで34%大幅に向上させることができると算出しています。 女性比率の低い領域におけるジェンダー平等の実現 女性の人材を獲得し、意欲的に働いてもらうための適切なアプローチは、それぞれの企業の風土や必要性によって異なるとはいえ、世界的にも有効と考えられる戦略がいくつか存在します。マーサーの調査によると、ジェンダーの多様性を実現するために必要な要素として、健康、経済的な安定、人材の適切なマネジメントが挙げられています。 1.健康 女性にとって健康は特に重要です。女性特有の健康問題や病気の影響があり、男性とは異なる方法で医療制度を利用することがあるためです。 たとえば、女性の罹患率が高い精神衛生上のリスクは、女性の生産性に大きな影響を与えています。単極性うつ病は、仕事上の障害の主な要因となっており、男性より女性の方が約2倍多いと言われています6。 ビジネスにおけるジェンダー平等を実現するには、企業は次のような分野で、女性が最も必要とする方法でヘルスケアを提供する必要があります。 1.     フレキシブルな産休 2.     身体的健康、ウェルネス、メンタルヘルスのサポート 3.     医療リソースへの自由度のあるアクセス 4.     厳しいライフイベントにおける精神的支援 5.     女性専用の医療サポート 2.経済的な安定 女性の抱える経済的責任や経済的ストレスは、男性よりも大きいことが報告されています。プルデンシャルが実施した2018年の調査によると、平均的な女性は、平均的な男性と比較して、退職後の貯蓄が少ないことも明らかになっています。退職後に備えて貯金をしていた女性はわずか54%で、その額は平均115,412ドルです。対照的に、退職後に備えて貯金をしていた男性は61%で、その額は平均202,859ドルでした。女性が退職後に貧困に陥る可能性が大幅に高く、女性の平均余命を短くすることにもつながることを示しています7。 この問題に対応すべく、組織は女性が公正な報酬を受けられるようにすること、将来のお金[T.M.3] の計画についてコーチングや教育支援を強化すること、女性向けに退職オプションを調整すること、貯蓄・退職口座への体系的かつ定期的な積み立てを奨励することを確実に行っていく必要があります。 3.人材の適切なマネジメント 女性には、トレーニングとスキル開発の機会だけでなく、昇進の機会に加え仕事以外の重要な役割を果たすための柔軟な勤務体系も必要です。 経営レベルでの男女共同参画をさらに改善するために、管理職に対する取り組みは欠かせません。しかし通常、管理職は長時間勤務が必要となり、チームやクライアント、上層部の管理能力も求められます。そうした地位の女性たちにとっては出産期と重なる可能性があり、企業がテクノロジーの活用、育児支援、女性向けメンタリングおよび経営支援、ビジネスリソースグループ、多様性および一体性プログラム、トレーニングなど、適切な働き方を提供しなければさらに困難になります。 女性の人材がビジネスに貢献し、事業拡大をもたらす力となりうることに疑いの余地はありません。金融機関と政府が優秀な女性を労働者また経営者[T.M.4] として登用するために求められる戦略に注力することにより、ポジティブな成果が表れてくるでしょう。影響力を持つ女性たちは、ビジネスの洞察力を生かし組織の成長を促すだけでなく、社会における女性の役割が教育やコミュニティを大きく改善し、ひいては国家の変革を可能にします。 出典: 1. 1. "The 50 Most Influential Women in Middle East Finance," Financial News, 29 Apr. 2019, https://www.fnlondon.com/articles/the-50-most-influential-women-in-middle-east-finance-20190429. 2. "FN 50 Middle East Women 2019," Financial News, 2019, https://lists.fnlondon.com/fn50/women_in_finance_/2019/?mod=lists-profile. 3. "Rania Nashar," Forbes, 2018, https://www.forbes.com/profile/rania-nashar/#20d8136e473c. 4. Masige, Sharon."Raising the Bar:Rania Nashar," The CEO Magazine, 27 Jun. 2019, https://www.theceomagazine.com/executive-interviews/finance-banking/rania-nashar/ 5. "Lubna Olayan Retires as CEO of Olayan Financing Co.; Jonathan Franklin Named New CEO," Olayan, 29 Apr. 2019, https://olayan.com/lubna-olayan-retires-ceo-olayan-financing-co-jonathan-franklin-named-new-ceo。 6. "Gender and Women's Mental Health:The Facts," World Health Organization, https://www.who.int/mental_health/prevention/genderwomen/en/#:~:targetText=Unipolar%20depression%2C%20predicted%20to%20be,persistent%20in%20women%20than%20men。 7. "The Cut:Exploring Financial Wellness Within Diverse Populations," Prudential, 2018, http://news.prudential.com/content/1209/files/PrudentialTheCutExploringFinancialWellnessWithinDiversePopulations.pdf.

デジタルトランスフォーメーションと第 4 次産業革命により、プロフェッショナルとしての将来やキャリアに対する見方が急速に変化しています。人工知能 (AI)や機械学習、オートメーションはかつて安定していたキャリア形成や業界全体を不安に陥れました。世界経済は常に流動的な状態にあります。 テクノロジーの進歩により、従業員が自らキャリアを認識し管理する方法にも革命がもたらされています。マーサーの 2019 年グローバル人材動向調査では、高度で創造破壊的なテクノロジーの影響に対し、個々の従業員と企業が互いに協力しなければならないことが示されました。ラテンアメリカのキンバリークラークはこの事実を受け止め、マーサーと提携しデジタル時代の絶え間ない変化に対応するべく、画期的な専門能力開発アプローチを生み出しました。 このソリューションは、ワークフォース内の経験豊かなメンターと従業員に価値を与えるデジタルプラットフォームを組み合わせ、独自の道筋で専門能力の開発に励むことができるようにしたものです。 キャリアプラットフォーム キンバリークラーク社は、会社の従業員と企業経営にインパクトをもたらす創造破壊、いわゆるイノベーションからポジティブな成果を引き出すという課題を提示しました。そこでマーサーが 150 名の従業員を対象にアンケートを行ったところ、驚くべき発見がありました。従業員の 5 人のうち 4 人が自身のキャリアについてはっきりした意見がなく、明確な方向性を見出すためのサポートが必要と答えたのです。 これらの回答を踏まえ、手探りで進む時代に未知の世界への不安を抱く従業員の仕事の満足度とキャリアの安定性を高めるデジタルメカニズムを構築しました。結果として完成したのが「キャリアプラットフォーム」です。 キンバリークラークには、ビジネス環境の再構築が進み、人々が大きな力に翻弄されているように感じているタイミングでこそ、キャリアアップを図る方法を従業員に示したいという想いがありました。これを受けてマーサーはさらに調査を進め、従業員が何を感じているのか、そしてそれはなぜなのか、真に理解するために可能な限り多くの情報を収集し、調査結果から引き出されたプログラムで 4 つのスプリントに辿り着きました。 1.     情報の収集 2.     コンテンツの強化 3.     適用の合理化 4.     すべての検証 驚くべき結果として、これらは従業員と会社にとって独自のキャリアを認識する上で不可欠なものとなりました。マーサーはアジャイル開発手法のスプリントを導入することで、キンバリークラークの既存の組織構造内でプラットフォームとプロセスをシームレスに開発し、反復しました。 キンバリークラークは、この創造的なアプローチを重要な差別化要因としてとらえ、今後マーサーが柔軟で順応性のあるパートナーになると考えました。それぞれのアジャイルスプリントでは、明確な目標を掲げ従業員とステイクホルダーのブレインストーミングと面談から詳細なロードマップまで作成し、従業員にとって魅力ある直感的なインタフェースをデザインしました。マーサーは キンバリークラークのあらゆる層の従業員と緊密に連携し、スプリントとタイムラインの管理から最終的にデジタル・キャリア・プレイブックと専門能力開発ツールとアセットを提供、従業員が独自のキャリアパス戦略を立案できるようにしました。 キャリアプラットフォームには、一群のカスタマイズされたツールと機能を備え、人間の知恵の価値とデジタル管理の洞察と機能が結集しています。キンバリークラークの経験豊富なメンターによるアドバイスを従業員一人ひとりに提供することによって、自身の個人的な目標や情報に基づいた意思決定を行い、専門能力開発の選択を行うことができます。これにより従業員は継続的な教育に対するプロアクティブなアプローチでキャリアを向上させ、キャリアパスや仕事の経験を選択することができます。 従業員がプラットフォームを活用して自分の関心や才能、スキルに基づいた決断をする際にアドバイスを受け、常にテクノロジーによるイノベーションが発展する中、自信をもって働くことができるようになります。 透明性による自己決定権 透明性は、従業員の福利厚生や生産性に責任を持つ経営幹部のリーダーやマネージャーにとって極めて重要です。大企業の経営層は多くの場合、現場からは切り離されていると感じており、従業員の課題や夢、職業上の目標を理解し真につながる方法を模索しています。このプラットフォームで従業員と経営者の間のコミュニケーションが民主化されることにより、相互理解が深まり、形式的な仕事も減ることで、従業員が自らのキャリアをコントロールできるようになります。 キンバリークラークの従業員にとって、キャリア・マネジメント・プラットフォームには将来を考える上で大きなメリットがあります。キャリアを明確に管理できるという機能です。キャリアプランの設計と実現は複雑なプロセスで、多くの場合、曖昧で誤解を招く機会や課題に関する説明も見受けられます。マーサーが開発したプラットフォームでは、従業員はキャリアやメンターによるアドバイスにアクセスできる自己管理ツールがあります。キンバリークラークの従業員は、このダイナミックな協調関係により、将来とキャリアを思い描くだけでなく、最高のアドバイスをもらいながらプロフェッショナルとしての夢をどう実現するかに向き合っています。このプラットフォームでは自身のペースで成長し夢を持つ一方で、スキル、才能、知識基盤を向上させるヒント、そして社内での雇用確保やキャリアパスが促進されます。 また、自分のキャリアや専門能力の開発を自己管理することもできます。とても協力的とは言えない上司やマネージャーの存在により、キャリアアップを妨げられていた友人や家族を誰もが知っているのではないでしょうか。このプラットフォームにより従業員一人ひとりが、理不尽にも誰かの偏見に自分の未来をコントロールされることなく、目標や達成したいことを公開できます。事業の経営者にとって画期的なのは、社員や人的資本にこのようなレベルでアクセスできることです。 また、生産性の高い従業員が見過ごされている、感謝されていない、無視されていると感じるために離職することで、新たな人材を採用するにはあらゆる面でコストがかかり、企業にとって重荷となっています。ラテンアメリカでは、エンゲージメントアンケートでキャリア開発の機会に満足していると回答したのは従業員の 50% に留まりました。半数の人がもっと満足できる仕事を他で探そうと検討している可能性があります。貴重な人材が失われるだけでなく、代わりの人材を採用する多くの時間やお金、リソースが費やされ、企業に破壊的な影響を及ぼします。 水平異動という新たな昇進機会 キャリアアップとは従来、企業内の階段を上って昇給、昇進、権力が増すことと定義されてきました。今日は、従業員の一人ひとりが水平異動を効果的で長期的なキャリア戦略として考慮する必要があります。 プラットフォームを活用することで、社員にはかつてない専門能力開発の門戸が開かれます。リストラにより従来の職はなくなる可能性はありますが、新しい世界は多くの強力なテクノロジーによって接続されます。そして以前は見過ごされていた水平移動によってより報いの多い機会に恵まれる可能性があります。たとえば、ある職員はボリビア、ニカラグア、ウルグアイなどの国における最初のカントリーマネージャーとして割り当てられるかもしれません。 変化は既に始まっていますが、未来の職業ではスキルを構築するために何年も同じデスクやパソコンの前で苦労する必要はありません。キャリアアップは将来的に水平異動という枠にもとらわれることなく、やりがいのある職業経験と独自のプロフェッショナルとしての実績により鍛えられたクリティカルシンキングが求められます。行動的で、豊富な知識や情報を持つ社員を生み出すのは経験です。今こそ、価値を経験にシフトさせましょう。 入社日から始まる未来の仕事 調査結果は、職業の安定性、給与、そして将来のキャリア機会という 3 つの大きな分野で従業員に懸念があることを明らかにしました。これらの懸念に対処するため、ユーザーフレンドリーなキャリアプラットフォームが開発されています。 キンバリークラークは、確かなものが何もない経済情勢の中、従業員にかつてないほどの新しい機会を創出するという任務をマーサーに委ねました。最終的に従業員だけでなく経営陣も熱意ある反応を示すものとなりました。マネージャーやリーダーは、以前より職員に安定したやりがいのあるキャリアを提供する義務があると感じていたからです。 さらに、このプラットフォームは新入社員の入社1日目から導入できるため、職員と企業にとって極めて高い価値をもたらします。それは組織のキャリア全体で真の情報源となります。 グローバル経済がデジタルトランスフォーメーションに適応していくにつれ、ラテンアメリカだけでなく世界中の企業やその社員は価値を発揮し、技術革新で満足度の高いく仕事と生活の質を向上させる新しい方法を探る必要があります。キャリアプラットフォームは目まぐるしいスタートを切りました。 この経験を通して学んだ教訓は、従業員と企業はお互いにとって最善を望んでいるということです。そして、その絆を深めることに貢献できることを嬉しく思います。

「退職」関連記事

Pat Milligan | 19 12 2019

平均寿命はここ数十年で急激に延びています。1960年には平均53歳に満たなかったのが、2017年には72歳となりました。高所得国では、平均寿命は80歳に届こうとしています。1 世界中で平均寿命と労働寿命が延びているため、就労生活における3大ステージ、すなわち「就学」、「就業」、「退職」に沿ったキャリアモデルにこだわる人は少なくなりつつあります。これに代わって広がりを見せているのがマルチステージという形です。一個人が正社員となり退社した後、パートタイムで働いたり、ギグエコノミーに参加したり、熟年期になって新しいことを学んだり資格を取得したりするスタイルです。 企業は、従業員の労働寿命が長くなり退職年齢が上がっている、この新たな現実に合わせてモデルや慣行、ポリシーなどを進化させていかなければなりません。労働寿命を延ばして高齢に至るまで生産性を維持するべく、「高齢化に備える」必要があります。これを怠れば、拡大しつつあるこの層から得られる利益を失うことになるでしょう。 また、こうした従業員が年齢差別を受けないように配慮することも大切です。雇用の平等に対する取り組み、そして徹底したダイバーシティ(多様性)とインクルージョン(一体性)の戦略を採用している組織でも見過ごされがちなものです。 世界の人材、熟練社員 マーサーが発表したレポート「Next Stage:高齢化への備えはできていますか?」によると、平均寿命と労働寿命は世界中で延びているものの、アジア太平洋地域が最も熟練社員の増加の影響を受けています。 同レポートでは、2015年から2030年の間に65歳以上の人口が2億人を上回ると推計しています。日本は世界初の「超超高齢(ultra-aged)」社会を迎えつつあり、65歳以上が人口の28%を上回るようになります。香港、韓国、台湾が後に続いて「超高齢(super-aged)」社会を迎え、人口の21%以上が近く65歳以上になろうとしているのです。 平均寿命が延びていることから、高齢な従業員は難しい判断に迫られています。多くの人は新しいスキルを学びたい、他の人とつながっていたい、あるいは社会に貢献したいという動機で仕事をしています。しかし、そのような選択肢を持たない高齢な労働者も存在します。延びた寿命の生活資金を賄うためだけに働き続ける人たちです。 老後は出費がかさむこと、年金制度が脆弱化していること、所得格差を背景とした貯蓄不足、低金利などの要因により、かつては退職年齢の迫った社員が当たり前に享受していた安心感が揺らいでいます。継続雇用を望むベテラン社員の存在は、企業や若手従業員にとってかつてない課題であるとともに、機会でもあります。 先入観と偏見を取り除く 世界中の職場において、従業員の人種や性的指向、性別に関わる差別をなくす取り組みは大幅に進歩しているものの、年齢差別については見過ごされがちです。 熟練社員に対する誤解のうち、とりわけ根強く有害なものをマーサーのNext Stageレポートより紹介します。 1.     誤解: 「熟練社員は生産性が低い」 事実:加齢とともに仕事のパフォーマンスが低下するという思い込みが誤解であると証明する研究が多く存在します。 2.     誤解:「熟練社員は新たなスキルやテクノロジーを習得するのが困難」 事実:ここで障害となっているのは、高齢な従業員は新たなスキルの習得が困難ということではなく、往々にして特定のスキルや知識を向上させるために必要なトレーニングを受けていないということです。熟練社員を含む労働者のうち、85%がキャリア開発の可能性を高めるためにスキル開発の機会と技術的なトレーニングを積極的に求めているという研究があります。 3.     誤解:「熟練社員は多くの国で人件費がかさむ」 事実:年齢(と責務)が増すにつれて賃金が上昇する可能性はあるものの、離職率が少ないなど、別の面で雇用者のコストを大幅に削減することもできます。マーサーのデータでは、労働者の年齢が上がる中で、同レベルの役職の賃金に一定の低下が見られます。 熟練した労働者の生産性、学習意欲および能力、雇用者の支出に切り込んだマーサーの調査と分析では、ベテラン社員と若手社員の間に繊細で複雑な関係があることが明らかになっています。高齢な従業員の生産性が低かった事例においても、個人のパフォーマンスに焦点が当てられる一方、メンタリングやトレーニング、指導に充てた時間など、重要な要素が考慮されていませんでした。 熟練社員の価値を高める 企業は、円熟した従業員の才能やスキル、潜在能力を活用することを学ぶ必要があります。マーサーの「2019年グローバル人材動向調査」は、現代のテクノロジーを企業の人事システムに統合することで、ベテラン社員に有益なツールを提供し、価値ある新たなスキルを教えることができるとしています。これらのテクノロジーでは、専門的な学習機能と予測型のソフトウェアアルゴリズムを利用し、精選(キュレーション)されたキャリア開発パスを提供します。 企業の学習プラットフォームでは、特定のキャリア目標に関係するコンテンツを集めたりスキルギャップを埋めたり、また専門知識を共有する同僚とのネットワーク作りにも活用できます。キュレーション学習プログラムでは、従業員が自分のペースでスキルを開発し、個人的なキャリア目標のベンチマークに基づいて資格を取得することも可能です。 また、企業の多くは熟練社員の価値と貢献を正確に評価できていません。そのために高齢な従業員の職業能力開発の機会が制限されているのが現状です。マーサーのNext Stageレポートでは、熟練した労働者は、長年の実務経験から得た深い知識、事業に関連する社会資本、技術またはコンテンツの専門知識を通じて、組織のパフォーマンスに大きく貢献できるとしています。 また、傾聴やコミュニケーション、コラボレーション、チームビルディングなどの重要なソフトスキルは、一般的に軽視されがちです。業績評価や昇進の可能性、報酬など、一般的なパフォーマンス指標に頼る企業では、ベテラン社員の貢献を過小評価し、活用機会を逃してしまいかねません。 熟練社員の価値と可能性を最大限に高めることにより、雇用主はこれらの従業員の経験や知識、人生経験を活用する職業能力開発の機会を新たに創出できます。年齢は知恵を育みます。エンパワーメントによって活用された熟練社員は、過去の貴重な経験を道標にしつつ、企業を明るい未来に導いていけるはずです。 出典: 1. "Life expectancy at birth, total (years)." The World Bank, 2017, https://data.worldbank.org/indicator/sp.dyn.le00.in

Anil Lobo | 27 6 2019

補完型退職貯蓄プランは固定給のない高齢者のために安全と安定を提供するための制度であり、インドの国民年金制度 (NPS) はまさにそれを目指しています。NPS は、補完型確定拠出年金プランであり、制度への加入は任意です。世界のほとんどの国と同様、インドの人口も高齢化しており、寿命も長くなっています。健康状態や衛生状態の改善により、世界の平均寿命は1990年の65歳から2050年までには77歳に延びると予測されています。1 ほとんどの人にとって寿命が長くなることは、働かないで生活を楽しむ期間が長くなることを意味します。ただし、ますます多くの世界中の人々にとって、働かない期間に快適に暮らすために十分な収入を維持することは困難になることが予想されます。ほとんどの高齢者はもはや収入を得ていないだけでなく、年を取るにつれて生活費とインフレ率が増加しています。世界中の政府指導者が国民の退職後の生活に備えるよう支援する方策を検討している中、退職後の貯蓄を促進し、高齢の労働者が老後の貧困状態を回避することを支援するモデルとして、インドの NPS を参考にできます。 インド国民年金制度の基本   2004 年、インド政府は国民に退職後の収入を得させることを目指して国民年金制度を開始しました。2この制度は年金改革を実施し、退職後の貯蓄の習慣化を促進することを目的としています。 当初、このプログラムは国家公務員のみが利用できましたが、2009 年には、18~60 歳のすべてのインド国民が NPS を追加で利用できるようになりました。Tier I NPS 口座 (税務上の優遇措置を受けるのに必要な口座) は、口座保有者が退職年齢に達するまで早期の引き出しを抑制するように設計されています。口座保有者が退職年齢前に引き出す場合、2 割のみ許可されますが、残りは年金保険の購入に使用されます。NPS の加入者には税制上の優遇措置が十分に提供され、税引前で拠出が行われます。ただし、一部引き出した場合は課税されます。 退職年齢に達した場合、累積金額の 6 割を非課税で引き出すことができますが、残りの 4 割は公認年金保険機構から年金保険を購入する必要があります。給付は 70 歳まで延期して投資を続けるか、希望すれば新たな拠出を行うことも可能です。 Tier II NPS アカウントは、厳しい解約ペナルティやロックイン制度のない任意の年金基金です。3 年間のロックイン期間を要する Tier II NPS では、いくつかの税務上の特典が提案されています。ただし、この提案は確定ではありません。 この制度の開始後にインド政府は、特に低収入労働者の間で退職後の貯蓄を促進する追加の社会保障プログラムを創設しています。2010 年、政府の Swavalamban スキームでは、政府または雇用者年金でカバーされていない、毎年 1,000 ~ 12,000 ルピーを拠出した貯蓄者の口座に、1,000 ルピーを預けることが約束されました。ただし、2015 年には、退職時に一定の資格を満たす貯蓄者のために確定拠出年金を保証する Atal Pension Yojana (APY) が支持されるようになると、その計画は廃止されました。さらに、APY では 5 年間 (2015 年から 2020 年まで) で基金の合計拠出金の 50% または年間 1000 ルピーのいずれか少ない方で政府が出資を行っています。 インドの NPS は何度か繰り返され、進化し続けていますが、この制度はインド国民の間で退職者の貯蓄を増やすのに役立っています。国民の期待も変化しています:老後を支えてくれる若い家族に依存する代わりに、貯蓄を調整して、退職後の生活を支える準備をし始めています。 それに加えて、NPS は最も安い投資商品の 1 つです。NPS の全体的なコストは他の商品よりはるかに低く、おそらく利用できる最も安い年金商品です。 インドモデルから学べる3つの教訓   国民全員のための国民年金プログラムを提供するインドの実験は、世界中の組織のリーダーに対して、多くの貴重な教訓を提供しています。 1.持続不可能な国債には新しい解決策が必要   NPS が創設される以前、インド連邦および州政府の職員は税方式の確定給付年金プログラムにより、退職時にインフレ調整後 5 割の代替賃金で補償されていました。1980 年代半ば、このプログラムのコストは年間 5 億ドル未満でしたが、2006 年までに寿命が延びたため年間 6,000 億ドル以上に急上昇しました。  3 プログラムは持続不可能となり、リーダーは将来の労働者の退職に備え、国の財政を保護するための代替プログラムを開発する必要があることに気付きました。NPS の創設以来、新たに政府職員となるすべての人が加入しており、労働者が自ら退職に備える責任を養い、政府の持続不可能な年金債務がかさんでしまわないよう保護しています。 2.補完型退職貯蓄制度で重要となる税制上の特典   加入者のほとんどは、税制上の優遇措置のために NPS への投資を選択します。しかし、一部のインド国民は、ミューチュアルファンド商品や民間退職貯蓄手段の中には市場平均を上回る可能性が高く、税制上の優遇措置も提供されていたため、NPS への加入を選択しなかったことが報告されています。 国民に貯蓄を奨励し、NPS を促進するために、政府は 3 種類のカテゴリーで減税オプションを用意しました。3 番目の選択肢は、NPS の企業モデルを通じて拠出されている給与を支給される従業員に限定されています。3 つのカテゴリーはすべて組み合わせて利用できますが、互いに排他的です。 さらに、退職時に認められているコーパスの非課税引出し限度額 (コーパスの早期限度 4 割からコーパスの 6 割まで) が最近緩和されました。もともと、引き出し額は 6 割が許可されていたものの、残りの 2 割には通常の税率で課税されていたため、完全非課税にすることでさらに魅力が高まりました。 雇用主が提供する確定拠出年金制度を含む他の退職貯蓄制度を利用できる少数の役員がいるかもしれませんが、国民のほとんど (特に労働者階級) は他の退職貯蓄制度を利用できないため、NPS の優遇税制について説明することが、退職貯蓄を奨励する決定的な動機付けになります。 3.国民にはモデルの優遇税制に関する教育が必要   NPS ではいくつかの優遇措置が提供されているものの、加入率は比較的低いままとどまっています。4最近の調査に対する回答からは、貯蓄の重要性や複利の利点を理解していないため、加入しないままでいる可能性があることが明らかになっています。 NPS リーダーは、この制度について人々に伝え、教育するためにさまざまな方法を使ってきました。たとえば、別々の 2 か所で行われたパイロットプログラムでは、組織化されていないセクターの労働者と主要な利害関係者を対象としたワークショップ、会合、キャンプが開催されました。さらに、情報発信はケーブルテレビネットワーク、ラジオ、広告宣伝車、セミナーやロードショーで行われました。 インドでは年金プログラムの成功の評価が続いており、将来さらに変更が加えられる可能性があります。多くの国で高齢者の貧困問題を解決しようと苦労していますが、インドの NPS は多くの国民にとって将来を保護するための積極的なステップとなっており、モデルとして参考にする価値があります。 出典: 1. United Nations: Department of Economic and Social Affairs,"World Population Prospects — 2017 Revision: Global life expectancy," United Nations: Department of Public Information, June 21, 2017, https://www.un.org/development/desa/publications/graphic/wpp2017-global-life-expectancy./ 2. "National Pension System — Retirement Plan for All," National Portal of India, October 22, 2018, https://www.india.gov.in/spotlight/national-pension-system-retirement-plan-all. 3. Kim, Cheolsu; MacKellar, Landis; Galer, Russel G.; Bhardwaj, Guatam, "Implementing an Inclusive and Equitable Pension Reform," Asian Development Bank and Routledge, 2012, https://www.adb.org/sites/default/files/publication/29796/implementing-pension-reform-india.pdf. 4.Zaidi, Babar, "5 Reasons Why Investors Stay Away From NPS. But Should You?" The Economic Times, December 27, 2018, https://economictimes.indiatimes.com/wealth/invest/5-reasons-why-investors-stay-away-from-nps-but-should-you/articleshow/61890679.cms.

David Anderson | 03 4 2019

アジアの年金制度は大きな課題に直面しています。この地域では急速に人口が高齢化し、少子化が進むなど、人口統計学上の激しい変化が見られます。しかし、地政学的な不確実性と最低レベルの金利により、投資収益率は比較的低くなっています。 堅固な年金制度が比較的少ない地域であるため、多くのアジア諸国は、十分な年金を提供するのに苦慮しています。政府は金銭的負荷を軽減し、若者と高齢者による世代間の争いを回避するために、今すぐ積極的な行動をとる必要があります。 十分性、持続性、健全性の観点から世界の年金制度を比較・ランク付けする2018年度マーサー・メルボルン・グローバル年金指数(MMGPI)によると、アジアの出生時平均余命は、過去40年間に、多くの国で7年から14年延びています。平均すると、4年ごとに1年延びていることになります。過去40年間における65歳の国民の平均余命延長は、インドネシアの1.7歳からシンガポールの8.1歳までさまざまです。 世界の他の地域も、高齢化に関連する同様の課題に直面しており、各国で同様の政策改革が進められています。これには、年金受給年齢の引き上げ、高齢就労の奨励、退職後に備えた年金基金の増額、退職年齢前に年金口座から引き出せる金額の引き下げが含まれます。 2018年度MMGPIの調査結果は、ある根本的な疑問を投げかけています。アジア各国の政府が年金制度の長期的な成果を改善するには、どのような改革を実施できるか、というものです。 世界基準の年金制度を確立するための自然な出発点は、十分性と持続性の間の適切なバランスを確保することです。短期間で多くの給付金を提供するシステムは持続性が低く、一方で長年にわたり持続可能なシステムは、通常控えめな給付金しか提供しません。 退職年齢や、社会保障や個人年金にアクセスできる資格年齢を変更しなければ、退職制度への負荷が高くなり、結果として、高齢者に提供される経済的保障が脅かされる可能性があります。女性と高齢労働者の労働力参加率が増加すれば、十分性と持続性を改善できます。 日本、中国、韓国は、MMGPI指数の最下位近くにランキングされています。これらの国々の年金制度は、現在と将来の世代の退職を支援できる持続可能なモデルになっていません。制度が変更されなければ、年金給付が世代間で均等に分配されないため、これらの国々では社会的な争いが発生するでしょう。 例えば日本は、約340万人の公務員の定年退職年齢を現在の60歳から65歳に徐々に引き上げることにより、年金制度改革のために少しずつ前進しています。日本の退職者は現在、60歳から70歳までの任意の時点で年金受給の開始を選択でき、65歳以上で受給を開始すると、毎月の受給額が増えます。 世界最高の平均余命、世界最低の出生率の日本では、人口の減少が予想されています。この困難な状況は、すでに熟練者不足の一因となっており、これが日本の税収基盤の減少にさらに影響を及ぼすと考えられています。また、生産年齢人口の49%が個人年金制度を利用していないため、日本政府は、より高水準の家計貯蓄を奨励するとともに、国による年金保障水準を引き上げ続けることで、年金制度を改善できる可能性があります。退職給付の一部を、一時金ではなく年金として受給するという要件を導入すれば、社会保障制度の全体的な持続可能性は向上します。また、国内総生産に占める政府債務を減らすことによっても、現在の年金支払水準を維持できる可能性が高まります。 中国は別の問題に直面しています。中国独自の年金制度は、都市部および農村部の人々、さらには農村部の移住者や公共部門の労働者に対するものなど、さまざまな制度で構成されています。都市部および農村部には、(雇用主の拠出または政府支出の)プール用口座と、(従業員拠出の)積立個人口座からなる賦課方式の基礎年金制度があります。雇用主によっては、特に都市部では補足的な制度も提供されています。 中国の年金制度は、年金に占める労働者の積立の割合を増やして労働者の退職生活保護を総合的に強化するとともに、最貧困層への最低限の支援を増やすことによって改善される可能性があります。また、補足的な退職給付金の一部を年金として受給するという要件も導入する必要があります。より多くの投資オプションを年金加入者に提供して、成長資産への投資機会を増やす必要があります。また、年金制度と加入者とのコミュニケーションにも改善の余地があります。 香港では、自発的な加入者による積立を奨励し、それにより退職貯蓄を増やせるよう、税制上の優遇措置の導入を検討すべきです。また、香港でも、補足的な退職給付金の一部を年金として受給する要件を導入する必要があります。平均余命が伸びれば、高齢労働者は労働市場に留まるべきです。 韓国の年金給付額は、平均賃金の割合のほんの6パーセントで、貧困層にとってきわめて不十分な年金制度の一つです。韓国の制度は、最貧困層の年金受給者への支援水準を改善し、私的年金制度からの退職金給付の一部を年金として受給するという要件を導入し、全体的な積立水準を引き上げることで改善されると考えられます。 しっかりと構成されたシンガポールの年金制度は、アジアで第1位にランキングされており、持続性においても向上が見られます。退職金制度の中央積立基金制度(CPF)は、シンガポールで雇用を受けた全居住者および、永住者を含めた加入者に柔軟なサービスを提供しています。しかし、実施可能なことはまだあります。税務上承認を受けたグループ企業による退職金制度確立に対する障壁を緩和するとともに、労働力の3分の1以上を占める非正規かつ非居住の労働者もCPFを利用できるようにすべきです。CPF加入者が貯蓄を利用できる年齢も引き上げるべきです。 年金制度は世代間の問題であるため、長期的な視点が必要となります。年金制度は、いずれの市場でも最大の機関投資の1つであり、気候変動などのリスク管理を含め、託された資本の優れた管財役として働く重要性をもっと認識すべきです。 アジアの高齢者は70代から80代に達しても生産性を維持しているため、十分かつ持続可能な退職所得の準備状況を改善することが不可欠です。雇用主と政策立案者は、退職年齢の引き上げ、労働者の個人年金の対象範囲の拡大、ファイナンシャルプランニングおよび早期貯蓄の奨励に注力すべきです。 *本記事はNikkei Asian Reviewに掲載されたものです。

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