資産運用

アジア太平洋地域(APAC)の経済は、特定の地理的、社会的、財政的状況により定義されるため、それぞれ独特な形で世界経済の変動の影響を受けます。しかし、急速なデジタル変革と硬直する地政学的緊張のため、APACにあるすべての経済成長国の運命は、あまねく広がるグローバリゼーションの影響と切り離せなくなりました。 APACの経済は、今後2年で5.6%の堅実な成長を遂げると予測されています。ただし、この地域に対するそうした楽観的な予測は、依然として深刻な脆弱性をはらんでいます。1 脆弱な領域は、経済、地政学、科学技術および環境面の4つに分類できます。各カテゴリーに目を通して、近い将来、成長が見込まれる国々にどのような課題が浮かび上がってくるのか見ていきましょう。 1. 経済面―債務と住宅   2016年、APACは北米を越えて、世界の債務の最大の要因地域となりました。実際、APACの債務は世界の債務の35%を占め、2008年の金融危機以降、着実に大幅な増加を示しています。この債務により、地域経済は金利上昇や潜在的なデフォルト危機の影響を受けやすくなっています。 危険にさらされている領域は、経済圏ごとに異なります。例えば、中国では非金融企業と一般家庭の債務が増加していますが、日本では国債市場をリスクにさらす公債が最大の関心事となっています。また、インドは、国立銀行の不良資産への支出で2,100億米ドルの打撃に直面しています。 2010年以降、APAC全域、特に香港、オーストラリア、ニュージーランド、そして、インドにおける住宅価格は収入より速いペースで高騰しており、ムンバイの家庭では、手頃な価格の住宅などほとんど存在しないと感じています。住宅価格が高騰する中、資産バブルがはじける危険が心配されています。ただし、リスクレベルを決定づける信用貸付のしくみと家計債務の額は各国で異なります。APACは、一般世帯が借金を返済できず、それが国際的な銀行業界を悩ませ続ける世界的な経済危機の一因となってしまった、2008年の米国の住宅市場危機から学んだ教訓を心に留めておかなくてはなりません。 オーストラリアは現在、世界最高水準の家計債務を抱えています。オーストラリアの銀行ポートフォリオの大半が抵当貸付に由来し、2008年の崩壊直前の米国の住宅市場をはるかに上回るレベルに達していることから、多くの米国および世界の投資家は、オーストラリア市場に対してヘッジを行う傾向にあります。 2. 地政学の面―保護主義と不平等   相互に繋がった世界経済では、あらゆる地域が国際貿易の動向や関税の影響を受けます。中国・アメリカ間で拡大する貿易戦争がAPAC全域のサプライチェーンを脅かしています。一部の国が他国以上に苦労しているため、保護主義の傾向が、この地域の密接に絡み合った経済網に浸透していくおそれがあります。 急速な地政学的進展は不安を生み出します。そうした不安により、企業や政策立案者はしばしば、経済がマイナスの結果を被らないよう、制限や防護を余儀なくされます。実際、中国とアメリカが優先事項を再定義する中、APACの国々は、絶えず変化し続けるこの状況に対し、どこでどのように適応するかを決める必要があります。オーストラリアからインドまで、APAC経済圏は、ビジネスパートナーを疎外したり成長の機会を犠牲にしたりすることなく、他の国々と協力および競争するという複雑な状況をうまく切り抜けなくてはなりません。 APACは混沌とした地政学的状況の中で安定を模索していますが、国際的な貿易や商取引の結果、多くの国で、国内における人口構成が劇的に変化しています。貿易に適した港、近代的な技術の中心地、高度な科学技術を必要とする雇用チャンスにアクセスできることから、大都市や巨大都市が増加しました。革新的な文化、アイデア、インフラを提供する都市部に若い世代が継続的に移住するため、周辺および農村地域は社会の主流から取り残されています。持つ者と持たざる者の間の格差拡大は、所得と富の不平等、広範囲にわたる不満、市民の不安を招くおそれがあります。 政策決定者は、APACにおける人的資本管理を形成する一般的な考え方や規制を管理しようとしています。シンガポールのジョセフィーヌ・テオ上級国務相は最近、シンガポール国民が周辺諸国に移動して仕事をする必要があることに触れ、特にシンガポールが中国とのビジネス関係を強化する中で、APACの他の経済成長国における機会に先入観を持たないよう国民に求めました。2 3. 科学技術面―奇跡と脅威   科学技術は世界経済の未来を形作ります。新たに出現する機器や科学技術は、政府による規制より速く進化しているため、監視の隙間を縫って、経済成長、イノベーション、そして犯罪にとって前例のない機会が生み出されることになります。科学技術は、APACが労働力の生産性を高め、社会改革を進め、環境面での持続可能性を支持する手助けとなってきました。ASEAN諸国に対するデジタル変革の影響はきわめて大きく、特にeコマース分野では、2017年第1四半期にASEAN諸国が世界の売上高の40%を占めました。東南アジアだけでも、インターネットやそれがもたらすあらゆる可能性にアクセスできる人々の数は、2025年までに2億人から6億人へと3倍に増えると予想されています。3 新しい科学技術のために失われる仕事もある一方で、同じ科学技術が多くの新しい仕事を生み出すことにもなります。実際、AIシステムを構築している多くの企業は、人間の従業員がAIの設計と実行に積極的な役割を果たすことを発見しました。4イノベーションが雇用創出につながることは、歴史が明らかにしています。例として、コンピュータの出現を取り上げてみましょう。タイピスト関連の役割での需要は減少したかもしれませんが、コンピュータベースの仕事に対する需要は、開発、運用、プログラミングに関連する新しい仕事を生み出しました。しかしながら、これらの進歩には現代的課題も伴います。 高度な技術を持った世界中のサイバー犯罪者は、政府、公的機関、あらゆる規模の企業の弱点を探り続けるでしょう。データや情報が天然資源と同等に貴重になるにつれ、国家間のサイバー攻撃が頻度と複雑性を増していきます。政府と多国籍企業との間の錯綜する同盟関係は、人々やそのプライバシーに対する権利に劇的な影響を与えます。人権や個人情報へのアクセスに関する政策が国により異なるため、人々が科学技術とさらなるつながりを持つようになれば、保護境界線を設定し、人間の可謬性を軽減するために、新世代のサイバー法が登場することでしょう。 4. 環境面―自然災害と人為的解決策   環境要因は、APACの将来の経済見通しと全体的な生活の質を決定します。地理的に見て、APACは世界で最も災害が発生しやすい地域です。洪水や熱帯低気圧といった環境災害は、ほとんどの人々、インフラ、施設が集中する沿岸部に甚大な被害をもたらします。自然災害は予測不可能であるため、突然、時には大規模に、人命の損失、人口移動、そして広範囲にわたる社会的・経済的混乱を引き起こします。 そうしたトラウマを受けた後、個人や地域社会は、政府やその他の機関が救済を提供できるようになるまで、悲しみを抱えながら、医療活動も不安定な中で自力で進まなければなりません。APACは、自然災害が人々と経済にもたらす荒廃を軽減するための、統合された政策およびシステムを積極的に施行すべきです。こうした動きはすでに見られます。香港のように比較的成熟した市場では、ハリケーンのような災害時にリソースを調整し、迅速に対応する能力が飛躍的に向上しています。科学技術と企業の利益がAPACをより緊密に結びつける中、各政府には、他の国々や地域に対する自国の責任が正確にはどのようなものであるのか判断する必要が生じます。 UNESCAPのデータ   地球規模で考えると、APACは有害な排出物や汚染物質の抑制に不可欠な役割を果たしています。時代遅れのインフラストラクチャと手ぬるい規制は、現代的な科学技術と政策に置き換えなければなりません。しかし、変化には時間と費用が伴います。多くのAPAC諸国はいまだ、石炭やその他の化石燃料など、従来のエネルギー資源に依存しています。ただ、地域および地方レベルでは大きく進歩しています。 例えば、中国は、石炭や石油に代わる大気中の汚染物質を減らすグリーン燃料技術の導入で、目覚しい進歩を遂げてきました。5化石燃料を風力や太陽光などのクリーンエネルギー資源に置き換えるという中国の新たなイニシアチブは、国内経済に悪影響を与えることなく、北京などの諸都市で大幅に空気の質を改善してきました。実際のところ、中国は持続可能な資源がエネルギーの未来であると考え、グリーンビジネスに積極的に投資しています。例えば、ハイテクなソーラーパネルの分野では、世界のソーラーパネルの3分の2が中国製となっており、電気自動車の分野では、2025年までに、テスラ社さえも凌ぐ年間700万ドルの売上を予測しています。6 APACは、地域として、再生可能エネルギー源を促進し、直接的で差し迫った脅威となる大気汚染や水不足の問題に取り組むための枠組みや新しい科学技術にも合意しています。経済発展と、気候変動および持続可能性イニシアチブの進展とのバランスをとるのは困難ですが、必要なことです。 この地域のその他の課題同様、気候変動に対応するには、APAC諸国、政府そして労働者の間に、新しい協力の時代が必要となることでしょう。2017年1月の米国の環太平洋パートナーシップ協定(TPP)離脱を受け、APACは、地球規模の問題を解決するため、より地域的なアプローチを検討することを余儀なくされました。しかしながら、APAC首脳は初心を貫き、2018年にはオーストラリア、ブルネイ、カナダ、チリ、日本、ニュージーランド、マレーシア、メキシコ、ペルー、シンガポール、ベトナムが参加して、TPPの改訂版に署名しました。 環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定(CPTPP)と呼ばれるこの新しい協定は、世界のGDPの約14パーセント(当初のTPPの40パーセントから減少)に相当するもので、参加国間の新たな貿易ダイナミクスや監督規制だけでなく、相互に合意された環境保護法の遵守についても詳述しています。知的財産権、仲裁および投資紛争の解決に関する条項のいくつかは、新しい協定では省かれました。これは、特定の問題に関して進行中の多国間協力や、公共の利益のために必要とされる各国政府による地域介入を引き続き進める余地を与えるためです。新しい協定では、当該地域の労働者の移動を規制しておらず、加盟国は、自国農民およびサービス経済の利益の保護を実現しています。 ますます自国中心主義になった米国の影響により、APACは互いの結びつきを強め、ビジネスチャンス、人材のやり取り、世界規模のデジタル変革への共同参画へとさらなる道を切り開くことを余儀なくされる可能性があります。APAC諸国のほとんどが新協定を批准したことは、世界の他地域で保護主義の言説が増加する中で、自由貿易の輝かしい砦となっています。 APACの将来について楽観的になれる理由は数多くあります。デジタル変革は、前例のない成長の機会、そして労働者を科学技術の進歩、起業活動、およびイノベーションの世界規模の急増に結び付ける力をAPAC経済圏に提供しています。環境問題や経済的逆風に対処する差し迫った必要性が、APAC全体に緊迫感を生み出しています。問題解決への協調的なアプローチは、APACの未来にとって明るい予兆となっています。献身的なリーダーやAPACに本部・本社を置く組織が、地域全体の繁栄を目指して強みを結集しています。世界経済の変化が続く中で、APACはますます影響力のある役割を果たすようになるでしょう。 詳細については、Marsh&Mclennanのアジア太平洋地域における14のリスクシェードレポートをご覧ください。 1Evolving Risk Concerns in Asia-Pacific:, http://bit.ly/2APQVlZ. 2Lee, Pearl. "Ties with China Multifaceted and Strong: Josephine Teo." The Straits Times, 2 Mar. 2017, www.straitstimes.com/singapore/ties-with-china-multifaceted-and-strong-josephine-teo. 3"Asean the 'next Frontier' for e-Commerce Boom." Bangkok Post. https://www.bangkokpost.com/business/news/1249798/asean-the-next-frontier-for-e-commerce-boom. 4Mims, Christopher. "Without Humans, Artificial Intelligence Is Still Pretty Stupid." The Wall Street Journal, https://www.wsj.com/articles/without-humans-artificial-intelligence-is-still-pretty-stupid-1510488000?mod=article_inline. 5Song, Sha. "Here's How China Is Going Green." World Economic Forum, www.weforum.org/agenda/2018/04/china-is-going-green-here-s-how/. 6Jeff Kearns, Hannah Dormido and Alyssa McDonald. "China's War on Pollution Will Change the World." Bloomberg, www.bloomberg.com/graphics/2018-china-pollution/.

Peta Latimer | 21 3 2019
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